小説

時刻は午前7時半過ぎ・・・。
4月を過ぎているもまだこの時間帯は冷えており、管理人は2、3度のくしゃみを起こした。

彼が数回のくしゃみ連発を終えたころ、エレベータの到着音が聞こえた。

エレベーターから降りてきたのは505号室に住んでいる朝倉涼子だった。

彼女は管理人室の前で立ち止まると管理人に愛想のいい笑顔を振る舞う。

「おはようございます。」

彼女の笑顔に年甲斐もなく頬を赤らめた管理人は鼻が伸びきった感じの口調で挨拶を返した

これだけでも彼が早く起きた甲斐があったというものだろう。

「あぁ・・・おはようございます。」

彼女は軽く頭を下げるとそのまま自動ドアをくぐり外へと出て行った。


今日は彼女の通う学校行事の一環であるハイキングの日だった。



「朝倉涼子の恋心」



1.

その日の涼宮ハルヒは実に意気揚々としていた。

その理由は実に明快である。

先日、これから行く六亀山にスカイフィッシュを見たという目撃情報をどこからか入手していたからである。

情報源こそ不明だが、その目撃情報の信憑性にハルヒは確信に近い自信があった。

それは彼女が昨日から肌身離さず持っている一枚の写真である。

写真には20代前半のアベックの後ろを通りゆく一つの影である。

ハルヒはこの影をスカイフィッシュと判断し、それを一目見ようと・・・あわよくば捕獲してしまおうという魂胆でなのだ。

そんなものが存在するはずがない、と団員の一人のキョンが瞳をキラッキラさせたハルヒを呆れたように一瞥する。

そんなキョンの目を気にすることもなくハルヒのテンションは上がっていた。

バスの席が近いのをいいことにハルヒは幾度となく前の席のキョンに話しかけ、自分の予想、想像ををまるで初めての海外旅行を経験する中学生のように話しかけていた。

「なにがそんなに嬉しいのかね?」

キョンはそうぼやくとうんざりしたようにひとつ溜息を吐いた。

他のクラスメートも妙な面倒が起きないことを切に願うものや、あまり関わらないようにしようとハルヒに視線を送らない者がいた。

そんな中でバス、最前列の席で静かにそれを喜ぶ者が一人いた。


六亀の山並みは見慣れたものがあり、その中で標高900Mの最高峰六亀山を前にしても生徒たちの関心は薄かった。

しかもやることと言えば山の中を歩いて植物園でハーブティーを飲んでアスレチックで遊ぼうという高校生の彼らからしてみればどうにも面白みに欠けるらしい。

バスが目的地に到着すると、前のバスから次々とクラスが下車し、先生の点呼の元にダラダラと並び始めた。

生徒たちが多少ざわつく中、学年主任の先生がバスに乗る前にも聞かされた今回の課外実習もとい遠足の趣旨を聞かされ、それからこれからの行程、注意事項が伝えられた。

「では、これから先日決めたグループで移動してもらう。」

学年主任の一声で生徒たちが早々とばらけた。

グループ分けは実にシンプルでクラス5〜6人に分かれるだけであり、しかもメンバーは仲がいいメンバーは集まったり、また、その少数メンバー同士が融合したという感じだ。

今回キョンは谷口と国木田に声を掛けられると続いてその後ろからハルヒにも声を掛けられた。

そしてさらには二人組の女子を谷口が適当に引っ張ってきて見事に6人組が完成した。

谷口曰く折角の遠足・・・華が欲しかったらしい。

もっとも、彼がお目当てだったのは委員長の朝倉涼子だったが、谷口が声をかけようとした時には既に数人の女子に囲まれており、彼のような男が声をかけようものなら周りの女子たちにどんな目で睨まれていたのか・・・と容易に想像できる。

楽しそうに女子たちと話す朝倉涼子を見て谷口は未練がましい溜息を吐いた。

谷口が瞼を閉じ肩を落としながら目線を下に向けたとき、彼女は確かにこちらに視線をよこした。



2.

朝倉涼子がほんのわずか向こうに気を取られていると、後ろから声が掛けられた。

同じグループの女子の一人だった。

「朝倉さん、早く行こう?他のメンバー先に行っちゃったよ?」

彼女の言葉に朝倉涼子は一言頷くと、少し早足で前に歩く彼女たちに少し早足で歩み寄った。


今回の六亀山のルートは全てで3種類あった。

ひとつは渓流沿いにいく道、石仏が安置され途中山中にある神社を通って行く道、そしてもう一つは最もポピュラーなハイキングコースで他の2つよりも道が整備されていた。

どのコースも到着点は異なり、それぞれの場所に先生が待機している。

女子たちは最初整備されて安全そうでなおかつ楽ができそうなハイキングコースを選んでいたが何を思ったのか急きょ道を変更し神社のある道へ行こうと言い出した。

コースは先日グループごとに教室で決めて提出しており、変更は許されない。

もちろん最初委員長の朝倉としてもそのことは認めなかった。

「少し羽目を外すのは構わないけど他の班に迷惑をかけるわけには・・・」

「大丈夫よ!」

そう言い、朝倉の懸念をグループの一人が取り払った。

「この道神社を少し越えるとハイキングコースにつながる道があるの!けものみちだけど・・・小さい頃からお父さんによく連れてってもらってるからこの山はめちゃくちゃ詳しいよ!」

確かに先生もイチイチ誰がどのコースに回っているかどうかなど覚えてはいないだろうが、それでも朝倉はまだ渋っていた。

「ほらほら、朝倉さん!難しい顔しないで?」

何をそんなにわざわざ別の道を変えてまで行きたいのか朝倉には理解しがたいものがあった。

「ん〜困ったなぁ。まぁそれならバレる心配は少ないだろうけど・・・」

「でしょでしょ?なんでも言うこと聞くから一生のお願い!」

女子たちはまるで朝倉を菩薩として扱うかのように合掌した。

「じゃあ・・・今回だけよ?」

流石に彼女は折れた。

このままここで足止めを食らってる時間もないのだ。

朝倉の言葉に彼女たちは実に喜んだ。

登山前からこれほどまでにエネルギーを使っていいのかというテンションだ。

「もう、朝倉さん最高!」

「よっ!日本一の学級委員長!!」

彼女たちが思い思いのことを口にしながら朝倉に抱きつく。

「ほらほら、早く登らないとビリになっちゃうわよ?」

朝倉はそんな彼女たちの中でも実に落ち着き、手慣れたようにお転婆な女子たちを登山へと誘導した。



3.

「え?なんだって?」

キョンは思わず聞きなおした。

そんなキョンにハルヒは実に丁寧に言いなおした。

「だから、カメラ!これで写真を撮ってきなさい?もちろんこのフィルム全部使い切りなさいよ?」

ハルヒから譲り受けた袋の中には未使用のフィルムが見ただけでも5〜6個はあった。

「なんの写真を撮るんだ?」

「別に・・・なんでもいいわよ。」

実に意味のわからない要求である。

なんでもいいと言われてしまうとキョンは逆に困ってしまった。

それならば例の未確認飛行物体を撮れとか言われた方がまだマシだ。

それなら撮れなかった時の言い訳は”見つけることができなかった。”と言えば納得はしないも、理解はしてくれるだろう

だが、”なんでもいい”といざ言われると困るものがある、

どこでどういう写真を撮り、どう言い訳をすれば彼女は満足するのだろうか・・・

まさか無作為に撮影させて、偶然に写る未確認飛行物体にでも期待を寄せているのだろうか?

(・・・空の方を撮っておけばいいか・・・?)

「言っとくけど、無暗に空ばかり撮って鳥の影を写して私に納得させようなんて腹黒い考えを持っても無駄よ!この林の木の先っちょより上にフレームを向けることは許さないわ!」

まるで読心者かと疑わせるかのような彼女の指摘にキョンは諦め溜息を一つ吐いた。

キョンは少しグループから離れたところまで歩き、木々の合間にカメラのフレームを向け始めた。

特にこれといって変わった風景もなく変わり映えのしない緑に次々とシャッターを押していく。

キョンは自分に構わず先々行くメンバーに気をつけながら早くもフィルムを1本使い切った。

「やれやれ・・・あと・・・7本か?まったくデジカメとかあっただろうに・・・」そんなボヤキをしながらキョンは袋に目をやったその時だった。「うぉ!?」不意に彼は足を取られた。

キョンの足は少しぬかるんだ傾斜を滑り、内に体ごと滑り落ちて行った。

周りに花とかを植えてあるのを見ると誰かが水撒きでもしたのだろう。

キョンは急滑りが終わってからそのことに気づいた。

体の泥を掃うと右足の痛みに気づいた。

「やべ・・・やっちまったか?」そう言いながら恐る恐るキョンは学校指定のジャージを捲る。

すると足首が若干青い・・・。どうやら捻挫のようだ。

しかし、キョンはそれはみんなに合流してから処理しようと考えた。

確かに気になる痛みではあるが、歩けないってほどの痛みでもなかった。

幸いキョンは過去に何度かこの場所を訪れたことはあるし、道もさほどキツイものでもないと判断したからだ。

「さて、行くか!」

そう意気込むキョンの視界の端におよそ1M弱の木の棒きれが映った。

「これを杖代わりにしたら少しは痛みも軽減するか?」何より流石のハルヒもこんな事態を予測してまい。驚くに違いない・・・あわよくば少しは労わってくれるかもしれないなという打算的な考えも少しはあった。

もちろん、”労わる”に関しては米の一粒も期待はしていないが・・・。



4.

「お願いします・・・。」

女子の一人はそう言って手を3回叩くと普段の学校で先生の前では見せないような深いおじぎをした。

そして、やり遂げたような顔つきで朝倉たちの場所まで戻ってきた。

「お待たせ!」

「えぇ・・・なにをお願いしてたの?」

「えっ?」

朝倉にそう聞かれると女子の一人は紅潮し、周りの人間達は少し可笑しそうにクスクス笑った。

「やだなぁ!朝倉さん!!女の子が神様にお願いすることなんて決まってるじゃん!」

「そうだよ!恋だよ!恋愛成就!!ねぇ?」

「う、うん・・・」改めて聞かれるとは思ってなかったのだろう。顔を赤くしたまま彼女は俯いてしまった。「ちゃんとお願いしたよ・・・彼の心が振り向いてくれますようにって・・・恋愛の神様に・・・」

そこまで言うと彼女はいたずらっぽく舌を出した。

「まぁ、神様なんてこういうときぐらいしか当てにしないんだけどね?」

「そう・・・あなたは恋愛の神様ってやつは信じてるんだ?」

「さぁ?まぁ強いて言うなら心の拠り所みたいなもんよ!こういうのにまで縋らないと気持ちが落ち着かないの!だから無駄だって・・・願いなんて聞き入れてくれるはずもないって思っててもこういうのも買っちゃうの!」

そういうと彼女はポケットから先ほど購入した1050円の恋愛成就のお守りを出してみせた。

「なるほど?勇気のおまじないみたいなものね?じゃあ、今は勇気が100倍なのかしら?」

「そうね、そうかもね。でもおまじないの方がまだ親しみが湧くわね?うん・・・勇気かぁ」

朝倉の言葉に女子はどうやら何かを納得したようにお守りを握りしめた。

そして、同時に強い決心を口にした。

「私、これから告白する!!」

その言葉に一同が目を丸くした。

「は?今から・・・なんでなんで?終わってからでもいいじゃん!いや、あんたがお守りとか買って気持ちが高ぶってるのはわかるけどさ・・・」

「そ、そうだよ・・・あんたも彼とは少しくらいしか会話したことないんだろ?もうちょっと落ち着いて冷静に・・・」

「これでドジったらきっと後悔するよ・・・?」

周りの女子たちが必死に止めるも彼女の決心は固いようで、大きくかぶりを振ると自分の決意を確かめるように口を開いた。

「だめ!今じゃないと・・・このタイミングで攻めないと永久に・・・もう2度とこの一歩が踏み出せないような気がする!それだけはいや・・・当たって砕けてやるわよ!!後悔するとかマイナスのことばかり考えて足踏みしてるだけじゃ絶対に勝てないもん!!」

そう凄むと彼女は一目散に走り出した。

「あ、ちょ・・・待ちなさいよ?」

彼女を追いかける女子たち・・・

そして、そこに朝倉涼子だけが取り残された。


一人になり、とりあえず彼女たちを追いかけようとした時だった。

不意に彼女の後ろから足音が聞こえた。

彼女が振り返るが、そこには誰もいない。

だが、今でも音は聞こえた。

よく聞くと、音は砂利道を擦ったような音だ。

彼女は木々が連なる林の奥に河原があるのを思い出した。

妙に重いその足取りが少々気にはなったので、彼女は木々の合間を抜け、少し覗いてみた。

そこには彼女がよく知っている人物がいた。

「あら、何してるの一人で?」

その声に足を止め、彼は朝倉を見た。

「おぉ、助かったぜ・・・いや、グループと行動してたんだが、なんかぬかるみに足を取られてな・・・」朝倉の姿に安堵しながらキョンは言った。

「・・・グループって涼宮さんのところ?また涼宮さんの指令に応えていたのかしら?」

キョンが左腕に引っ掛けている小さな袋の中にあるフィルムとインスタントカメラらしきものを見ながら彼女は言った。

「あぁ・・・まぁそんなとこだ。適当に写真を撮れといわれた。」

「そう。あなたも大変ね?」

朝倉は小さく笑う。それと同時にキョンも朝倉が今メンバーから離れて一人だということにようやく気がついた。

「朝倉のグループの女子連中はどうしたんだ?まさか委員長のお前が一人迷子というわけでもあるまい。」

少し冗談めいて言い、キョンもまた笑顔の一つででも返されるとでも思っていた。

しかし、キョンの思っていた表情は浮かべることはなく、どこか悲しそうに朝倉は言った。

そこには自嘲の感じさえもした

「委員長の私が迷子じゃ何か問題かしら?」

意外な返答だった。と、同時に背中に妙な悪寒が走った。

珍しい。こんなことで気分を損ねるような人柄ではなかったはずだ。

それがキョンが朝倉涼子に抱いていた人物像であった。

「悪い。気分を害したのなら謝ろう。」

キョンは何か彼女に妙な感じを抱きながらも、とりあえずその場を取り繕うように謝罪の言葉を述べた。

すると、さっきの表情とは一転朝倉はにこりと笑った。

「あ、ごめんなさいね?グループの子たちはねなんかどっか行っちゃったの?」

「おいおい、グループリーダーを置いてか?」

キョンは少し呆れたように言った。

「うん・・・その内の一人の子が急に好きな子に告白するんだって張り切っちゃって・・・」

キョンは今いる場所がこの山に建っている神社に近い位置だということを思い出した。

なるほどと納得すると朝倉の方に歩み寄った。

特に彼女に用があるわけではない。

ハルヒたちが選んだルートが神社コースだったからもあるし、神社があるということは冷たい水もあるだろうと思ったからだ。

キョンは少しこの腫れた足を冷やしておきたかった。

「大丈夫?具合でも悪いの?」

朝倉はキョンの汗の量を見て少し心配そうに見た。

「いや・・・大丈夫。」

・・・”大丈夫”と答えたことはどこか怪我をしているということ・・・。

そう考えた朝倉はまず登山者がよく怪我する足首を疑った。

朝倉はキョンの前に立ちはだかりしゃがむとキョンのズボンの裾を捲りあげた。

「お、おい・・・。」

「やっぱり・・・」

当たりだった。キョンの足首は既に紫色に腫れ上がっていた。

朝倉は怪我を見るとすぐさまキョンを適当な場所へ座らせると手水舎へと走った。

最初、ハンカチを出そうとした朝倉だったが木々に水を撒いていたのかだろうか・・・花壇の横にある竹製の桶を見つけるとそれを拝借し目一杯に水を汲みそれをこぼさないように実に慎重に且つ早足でキョンの下へと戻った。

「はい、これに足突っ込んで。ちょっと冷たいと思うけど・・・。」

言われるがままキョンは足を突っ込んだ。

「んっ・・・!」

まだ冷えるこの時期の水はかなり冷たく、思わず声をあげそうになった。冷たいが痛いという感覚に変わりそうだった。

しかし、それも次第に慣れてきてキョンは深く息を吐いた。

「いつまで続けておけばいいんだ?」

「うーん・・・大体20〜30分くらいかな?」

「そんなにか?連中ゴールしちまうぞ?」

連中とはもちろんハルヒたちのことである。

ここまで心配の電話が一つくらいあってもよさそうなのにそれが一向にないことにキョンは少々不満に思っていた。

「悪いな?お前にまで迷惑をかけた。」

「ううん。クラスメイトの一大事だもの。これくらいは当然よ?あなたの安否は私にとってもすごくすごく大事なことなんだから・・・」

なるほど。と2回目の相槌を打った。

委員長というのは・・・それもここまで出来た人間にもなると他人の安否までも心配せざるを得ないということか。

将来、出世も考えものだな。上に行けば行くほど配慮しなければならないことも増えるということか・・・。

こうやって気楽に学校生活を送っている自分は幸せ者だ・・・。と自分の紫に腫れ上がった足と睨めっこしている朝倉を見ながら思った。

「・・・朝倉のグループの女子はいいのか?」

「うーん告白終わったら戻ってくると思うんだけど・・・あ、でもどうかな?その男の子を探すと思うから戻ってきたとしても結構かかると思うよ?」

「そうか・・・。」

会話がそこで途切れるとキョン先ほどから少しから気になっていることを朝倉に聞いてみた。

「なぁ、朝倉よ。」

「ん?何かしら。」

「お前はなんでその女子たちと一緒に行かなかったんだ?」

「出遅れちゃってね?気がついたら彼女たちの姿はなかったの」

朝倉は特に恥じることも躊躇うこともなく言った。

「で、追いかけようとはしたんだけど、後ろから聞こえてきた砂利道を蹴る音の方が気になって・・・。」

「なるほど。それは悪かったな。」

朝倉と出会って何回目かになる謝罪をした。

朝倉はかぶりを振ると「そんなことないわよ。むしろ感謝してるくらいよ?」と表情を変えず常に顔に微笑みを保ったまま言った。

「感謝?・・・・神様にか?」

キョンもまさか今手当を受けて貰っている自分だと思ってはいない。

そう思い、少しからかい半分で聞いてみた。

「そうね・・・そうかもね。」

どうにもつまらない返事であった。

そして、またしても会話が終わってしまった。

キョンはこのちょっと気まずい空気を打破しようと次の会話のネタを頭の中で模索していた。

すると、今度は朝倉の方から話を振ってきた。

「そういえば、どうなの?涼宮さんたちと上手くいってるの?えーと・・・SOS団だっけ?」

「ん?あぁ・・・どうだろうな?何をどうすれば上手くいっていると言えるのかでさえ謎だ。」

キョンのぼやきに朝倉はそれもそうねと笑った。

「・・・彼女と一緒にいて楽しい?」

「・・・楽しくはないな。だがつまらなくもない・・・ってところだ。つまらない、飽きたとかより今は頭痛の種の方が多いな。」

「へぇ・・・じゃあ涼宮さんの方は?」

「あぁあいつはいつでも何やら楽しそうだよ・・・。」

「そう・・・それは何より。」

そして、また会話が途切れた。


「多分そろそろ大丈夫だと思うけど・・・」

次に朝倉が言葉を出したのはそれから10分後のことであった。

キョンはそれを聞くと、そっと桶から足を出した。

そして、朝倉は鞄からスポーツタオルを取り出すと、それをキョンの足首に巻きつけ少しキツく締めた。

「本当は包帯とかあったら良かったんだけど、今はこのタオルで我慢してね?」

キョンは素直に感心した。

ここまで即座に適格であろう処置ができるというのは大したものだ。

彼女は将来いいお嫁さんになるだろう。谷口ではないが出来た女性としてはAA+を付けても過言でないと思った。

そんな彼の視線に朝倉が気付いたらしく、笑顔で小さく首を傾げた。

「私の顔になにか付いてるかしら?」

「いや・・・ただ、ここまでちゃんとした処置ができるのは凄いなと思って・・・」

朝倉はまた小さい上品な笑い声を出すと「ありがとう」と一言呟き、立ち上がった。

「さて、行きましょうか?本当に捻挫なら病院に行かなきゃだし・・・」

「あぁ・・・悪いな。」

「もう少し休ませた方がいいと思うけどもう行かなきゃ・・・他の人たちに迷惑掛かっちゃう。もうここを通る人はいないみたいだし・・・みんなが、戻ってくる様子もないもの・・・」

「・・・本当か?」

「・・・さ、行きましょ?肩貸そうか?」

朝倉はキョンの言葉には答えずに手を差し出した。

その提案にキョンは手で制した。

さすがに女子にそこまでやってもらう訳には行かなかった。

「そう・・・?無理しちゃあなたの為によくないと思うけど・・・?」

「いや、そう甘えてもいられんさ・・・」

そう言いながらキョンは朝倉の前を通り、ゆっくりとゴールへ向かった。

そんな彼の後姿を朝倉はただ見ていた。

そして、黙って追いかけた。



5.

集合場所では皆が首を長くしていた。

教師たちも、来たら怒鳴りつけてやろう。そう考えていたに違いない。しかし、異常な汗をかきながらやってきたキョンとその荷物を持ちたまに辛そうな朝倉涼子を目の当たりにした今では彼らに出す拳がなかった。

「朝倉班、及び谷口班の残り・・・無事到着しました。」

朝倉は手短に教師陣にそう伝えると速やかに自分の班がいるところに行った。

そしてキョンはというと・・・

「もう、今まで何やってたのよ!探したんだからね?あぁ・・・フィルムこんなに余ってるじゃない!あんたは何のために山の中さ迷まよてたのよ!」

キョンが口をはさむ余地すらない彼女の言葉はキョンの足首に巻かれたタオルに視線がいったことによって一旦止まった。

しかし、また彼女のマシンガントークは再開した。

「ちょっと、足怪我してんじゃない!ってか可愛いタオルね?ピンクってあんたの趣味?あぁ〜さっきの委員長に鼻の下伸ばしながら看護されてたのね。うわ目なんか瞑らなくてもその光景が目に浮かぶわ。あぁ〜やらしいやらしい!」

そこまで言い終わるとハルヒは立ち上がった。

相手が彼女ということだけに少し警戒した姿勢を見せる教師陣に生徒たち・・・。

「彼、足に怪我してるんで病院に行きたいんで私たち先にタクシーで帰ります。」

「は?おい、待ちなさい!」

岡部の声を振り切りハルヒはキョンの腕を引っ張り歩いた。

結構強引に引っ張るハルヒにキョンの足は確実なダメージを負っていたに違いない。

「おい、ハルヒ!俺は別に構わんから一緒にバスで帰ろう!」

「バカね!このあと長ったらしい校長の話とか聞かなきゃなんないんだから、バスを降りても今日の感想とか書かされるに決まってるわ。15時半解散なのに今は13時過ぎってのがいい証拠よ!こういう怪我は早く見てもらうに越したことはないわ!あんたの足がそんなんじゃ、これからの活動にも支障が出るってもんよ!それにどこぞも知れない女委員長にだけあんたのことを任せてたらSO S団団長の名が廃るってものよ!」ハルヒは語気を強めながら言った。

どこぞの・・・というが朝倉は自分たちのクラスの委員長だぞ?と言いそうになったが、それを言うとまた無駄にダメージを重ねそうなので呑み込んでおいた。

ハルヒはすぐにタクシーを拾うとそれに乗り込んだ。


教師陣はどこか諦めが入ったようにそのタクシーを見届けた。

その中で朝倉もどこか嬉しそうにそのタクシーが去るのを見ていた。



6.

「ねぇ?朝倉さん!」

バスの中でグループの女子たちがニヤニヤしながら朝倉に声をかけた。

「あの子、告白成功したみたいよ?」

あの子というのは神社でお祈りをしていた女子のことだろう。

朝倉は笑顔でその子に祝福の言葉を述べた。

すると、その女子はどこか照れくさそうに朝倉に礼を言った。

「朝倉さんのお陰だよ。あの時朝倉さんがこのお守りをあんな風に言ったからだよ?」

「やっぱり、こういうのは勢いだったってわけよ?ただ最初から無理無理と尻すぼみしてても何も始まらないし何の解決もしないもん!」

「うんうんやった後悔よりやらない後悔の方は数段でかいからね?ただ悠長に見ていて気づいたころにはもう手の届かない場所まで行って手遅れになってたーなんて嫌だもん絶対!」

そんな彼女たちの話題は先ほど集合時間に遅刻した朝倉に向けられた。

「・・・そういえばごめんね朝倉さん。置いてけぼりにしちゃって・・・」

「ううん気にしてないわよ?」

「そう?あ、まさか意中の彼と二人っきりになれたからとか?」

「えぇ〜あの彼とぉ?」

「ちょっとやめなよ二人とも!」

妙に囃し立てる女子二人にお守り女子がそれを制した。

「あぁ、ごめんごめん!冗談冗談ハハハ・・・。でも気になるじゃない?高嶺の花の委員長美女・朝倉さんは恋をしてるのかって」

「そりゃまぁ気にはなるけど・・・」

お守り女子は横目で朝倉を気にしながら一応女子たちの話に同意した。

「で、どうなの朝倉さん?」

女子たちのテンションはどんどんと上昇していく。

すると、朝倉は顔を紅潮させることもなく目を上に向け少し考えた。

「そうね・・・あなたたちが言うそれを恋というなら、今の私は片想いってところかな?」

その言葉に女子たちのテンションは急上昇していった。

「なんだぁ朝倉さんもやっぱり私たちと同じじゃない!今日この子と一緒に”勇気のおまじない”買って当たって砕けてきたらいいのに・・・。」

「バカね!朝倉さんみたいな人が砕けるわけないじゃない!」

その女子の言葉を聞いて朝倉は考えた。 ―――砕けるかぁ・・・砕けるで済むかしら?・・・なんたって私が恋い焦がれてるのはあなた達の言うところの神様ってやつなんだから―――彼女は苦笑した。

そして彼女のそんな思いを乗せながらバスはゆっくりと西高へと向かっていった。


・・・微かに胸をの鼓動を高鳴らせながら・・・。


あとがき


どもぽちゃです。

朝倉難しいよぉ〜・・・泣きそうになった。

ハルヒは性格的には凄く書きやすいんだけどな。朝倉はなぁ・・・

設定的には朝倉がキョンを襲う前、ハルヒがSOS団結成後という感じ・・・。

あくまでIFストーリーなので、あまり深いご指摘は勘弁・・・。

ラブコメは見てて楽しいけど書く分には結構つかれる・・・というかベタ滑りでごめんなさい。

本当は有希を出したかったんだけどね・・・出るタイミングを完全に見失ったんだよ・・・今度ハルヒ小説を書くときは出してあげるからね・・・

さてさて、らき☆ぽけの方が更新が滞ってるので11月までにはせめて1話は挙げねばという感じです。

はぁ・・・大丈夫。また最近ミステリーブーム再燃中だから小説書くの楽しいよ?

うん、だからまた更新ペースも復活するさ。

あ、そうだ。スクイズとかも書かねばということらしいがメインキャラに困る・・・。一度は書いたんだけど挫折してしまった。

敢えて誠を出さないという選択肢があるがどうだろう?ww

じゃ、また!!