小説 ひだまりスケッチ#1

「9月21日 まんまるムーン」


PM19時30分。

晩御飯も食べ終わり、床の間でまったりとくつろぐのは山吹高校美術科1年生のゆの。
窓を半開きにし、月夜から吹いてくる心地いい風を感じながら、欠伸を少々。
そんな、静かな夜を吹き飛ばすかのような声が隣の部屋から響いてきた。宮子だ。
「ゆのっち〜!!準備できてる?」
「へ?宮ちゃん?ごめん晩御飯食べちゃったよ?」
勢いよく玄関の扉を開けて入ってくる、宮子にゆのはとりあえず真先に心当たりのあることを言ってみる。
しかし、宮子は大きく首を横に振る。
「それもあるけど・・・」
「あ、あるんだ。」
「準備ってのは団子のことだよ!!」
ゆのはたちまちキョトンとなる。


団子?
なぜ?
おやつ?
そもそもなに団子?
よもぎ・・・みたらし・・・あんころ・・・わらび・・・肉ま・・・

混乱するゆのに宮子はお構いなしに自らの手に持っている筒をゆのにみせる。
「私も奮発して、のりは用意した!!」
「のり?お団子に?」
その明らか餅の方につく付属品にゆのは更に混乱していく。
「ゆのっち!!」
大声で目の前にいるゆのの名を叫ぶ宮子にゆのは相当驚いたらしく、さっきまでのまったりした体を無意識に引き締める。
「は、はひ!!」

「空を見てみ?」
宮子は半開きだった窓を全開にして、ゆのを肩に天を指さした。
「何が見える?」
「えっと・・・お星様?」
ゆのの解答が気に入らなかったのか宮子は少し間を置いて、再びゆのに問う。
「・・・じゃあ、そのお星様の王様は?」
「お、王様?・・・冥王星・・・かな?」
ゆのらしいと言えばまぁゆのらしいトンチな答えに、宮子は両手でゆのの肩をがっとつかみ激しく前後に揺らしながら・・・





「この、非国民め〜!!」



と叫んだ。


「ちょ、宮ちゃ・・・スト・・・よ、酔う・・・ぅぷ。」


5分後。

「ゆのっち、すっきり?」
「うん・・・」
顔色を少し取り戻し、洗面所から出てきたゆのは、改めて宮子にさっきからの疑問ワード「団子」について聞いてみた。


「月見。」
「へ?」
「いや、だからお月見しよう。外きれいな満月出てるし」

その瞬間、ゆのははっとなり、ようやく今まで宮子の言ってたことが頭の中で一本に繋がった。
「あ、もうそんな時期か。でも、どうしよう。団子ないよ?」
「あぁ、それなら大丈夫。手は打ってある!」
「ん?あ、そうなんだ・・・。」
あれ?じゃあ、さっきまでのやりとりは一体・・・と、ゆのは妙な引っ掛かりを残しつつも、いそいそとハンガーにかけていた薄い上着を羽織り出かける準備を整えた。
「でも、どこでやるの?」
肝心の月見会場の場所をゆのが聞くと、みやこはゆのの顔を無邪気な笑顔で見合せながら、黙って人差し指を上に向けた。

「屋根!?」

流石のゆのも月見をひだまり荘の屋根でやるとは思っていなかったらしく、つい、大声を出してしまった。
しかし、宮子はそんなことお構いなしに、ゆのの手を引っ張って、月見会場の屋根へとやってきた。


「あ、涼しくて気持ちいい。」
屋根に登ってみると心地の良い風が吹き、さっきまで心なし躊躇していたゆのも、立って両腕を広げ、風を目いっぱいに感じる。
「で?宮ちゃんお団子はどうするの?」
もう一つの主役ともいうべきものが少なくとも屋根の上には見当たらない。
宮子の方を見るといつ用意したのか分からない釣竿っぽいものを装備して構えている。
しかし、先端はクレーンゲームのアームのような形をした針金が装着されていた。
「ゆのっち、どうしてお月見の時は縁側で団子だと思う?」
「え、確か・・・子供達がいつでもお団子を貰える様に」
そんな質問をしながら宮子はゆっくりと慎重に屋根の端を歩く。
(・・・標的捕捉!!)
宮子はピタリと止まり竿の糸を垂らした。
「宮ちゃん、何を!?」
ゆのはさっきの質問を踏まえて宮子の意図を察したようで、オロオロとその光景を眺める。
「そうなのだ。ゆのっち・・・この満月の一夜だけは・・・」




「うふふ・・・。やっぱり、月といえばお団子よね。」
自分の庭で、ひろはピラミッド状に積んだ団子をそばに置いて月を眺めていた。
形は丸のほかに細長い団子に餡をまいた叢雲状の団子まである。
そんな団子にゆっくりと上から忍び寄る魔の手・・・。

「?」
ひろが気づいた時には既に遅し・・・。上から勝者の歓声が聞こえていた。

「この満月の一夜だけは、食べ物盗っても怒られない日なのだ〜!!」

「しまっ・・・!!宮ちゃん!?」
団子片手にひろに勝利のVサインを送る。
ひろはあまりの出来事にキョトンとなっている。
「獲ったどー!!」
「み、宮ちゃん。月見泥棒が許されるのは子供だけで・・・。」
夜中に大歓声をあげる宮子に、ゆのは慌てて、間違いを正す。
「私、まだ未成年だよ?」
「そうだけど・・・あれ?未成年なら子供なのかな?」
その辺の微妙な境界線に頭を悩ますゆの。
一方の宮子は団子を盗られた可哀相な被害者・ひろに大声で呼びかけた。
「ひろさん、そういうわけだからごめんね!!ひろさんもこっちきて一緒にお月見やろ?」
「屋根の上でやってるの?」
ひろが宮子に下から大声で返す。
「なになに、何事?」
あまりのうるささに、沙英もベランダから出てきた。
そして、ひろの視線に合わせて、上を見上げ宮子を見つける。
「宮子!!そんなとこで何やってんの?」
「お月見!!」
宮子はお団子を沙英に見せながら、屋根の上にご招待する。
そして・・・


「私、ここ登るの初めてかも。」
結局、宮子に言われるままに二人は屋根の上にやって来た。
「風が気持ちいいね。」
心地よく吹く風に沙英の顔にも自然と笑みが零れる。
一方のひろは・・・
「宮ちゃん、ひどいじゃない。いきなり、人のお団子盗るなんて!!」
「ふぉ・・・ふぉめんなふぅぁい・・・」
怒りのひろに両頬をつねられ、さらに左右に引っ張られている宮子は辛うじで「ごめんなさい」を言いようやく、解放された。
「でも、屋根の上何かで・・・大丈夫かしら?」
「確かに・・・よくよく考えたら学校の真ん前だし」
今更ながらにひろと沙英が自分たちのいる場所に不安を覚える。
「ねぇ宮子、やっぱり下に降りてやんない?危ないし・・・。」
沙英の言葉に少し考える宮子。
「ん〜」
そして、辿り着いた答えは・・・

「確かにうどんを運ぶのにはちと面倒かな?」
「あ、そこですか。」
食い意地というか宮子の果てしなき食に関する貪欲っぷりに、沙英は呆れ半分、おかしさ半分の笑みを浮かべた。


結局、少し屋根でボーっとしてから降りることにした4人は横に並び、団子をつまみながら月を眺めていた。

「何でしょう・・・少し上に登っただけで、こんなに月が近く見えるなんて・・・」
「そだねー」
ゆのが、小さく感慨に言葉を漏らすと、宮子もそれに軽く同意する。
「ひだまり荘あと10軒ぐらい積めば、月に行けそうじゃないですか?」
「ははは・・・全くゆのらしい発想だね。」
ゆのの可愛らしい子供じみた発言は自然と皆の口を緩ませる。
ゆのは言った後に少し恥ずかしくなったのか、少し顔を赤らめながら「へへへ」と笑って見せながら、団子をひとつつまむ。
「でもさ、ゆのっち・・・10軒積めるお金あったら、このひだまり荘をまるまるロケットにした方が低コストの様な気がしない?」
「え?でもそれじゃあ、宇宙服も用意しないと!!」
「いやいや・・・どっちみちいるから宇宙服は・・・というか、ロケットの方が割高だろ!!」

ゆのと宮子の突拍子もない天然会話に沙英は肩を少し落としながら突っ込みを入れ、その傍らでひろがくすくす笑いながら重い腰・・・失礼。
軽やかな感じで・・・軽やかな感じで・・・立ち上がった。
そして、後ろを不意に振り向く。
「どしのひろ?」
「いや、何か・・・今誰かに重いって言われた気が・・・。」
「気にしすぎじゃないの?」
疑いと警戒の眼を周囲に配らせるひろに沙英は呆れてものも言えない感じだ。

「で?何で急に立ち上がったの?」
ようやく気が済んだひろに沙英は尋ねる。
「あぁ、そろそろおうどんを作ろうと思って・・・。」
「よっ!待ってました」
ひろの言葉に宮子のテンションが一気に上がる。

「じゃあ、そろそろ降りようか?」
そう言いながらひろと沙英、そして宮子の順にひろの庭へ続く梯子を降りる。
そして、宮子が降り切ったときあることに気づく。

ゆのがいない。
屋根の方を見上げるとゆのがそれはそれは愛くるしい子猫のようにがたがたと震え、縮こまっていた。
「ゆのー、なにやってんの〜?」
宮子が大声で呼びかける。
「え・・・えと、そのさっきは何とか登られたんですけど・・・。」
「降りられなくなっちゃったの?」
ひろの問いに、ゆのは黙って首をちょっぴり恥ずかしそうに首を縦に振る。
「ありゃりゃ・・・参ったねこりゃ。」
沙英が頭を抱えていると、宮子が梯子の足をしっかりと握ってゆのに呼びかけた。
「ゆのー!!あたしが支えとくからゆっくり降りてきなよー!!」
「うぅ・・・宮ちゃん。」
宮子に後押しされ、ゆのはゆっくりと、ゆっくりと、梯子に足を掛ける。
1段、1段、がたがたと足を危なっかしく震わせながら降りていく。
見ている、沙英とひろも冷や冷やもんだ。
と、その時。
「ゆのー!!」
中盤にまで差し掛かって来たところで、不意に宮子がゆのに呼びかける。
「な、なに?宮ちゃん!!」
思わず足を止める宮子。
「白は清潔でいいですぜ!!」

一瞬、ゆのの中の時間が止まった。

白?白・・・し!!

「・・・!!」

思わず両手で履いているセミロングのスカートを抑えてしまった。


「あ」
「あ」
「あ」
「あぁ・・・」


一同・・・間抜けとも思える声が出てしまう。
ただ一人、一番視線の高い子の声はかなり弱弱しかったが・・・
そして・・・







「きゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・









「・・・っと!!」
背中から落ちてくるゆのをマッハ的なスピードで受けとめたのは、ほかでもない宮子だった。
「はぁはぁ・・・み、宮ちゃん・・・」
「ふぅ・・・ゆの、大丈夫?」
「う、うん・・・怖かったよぅ・・・」
ぽろぽろと涙を流しながら、宮子に抱きつきすがり寄る。
「いやーごめんごめん。ついね口に出ちゃって。」
「へ?何が?」
どうやら、さっき宮子に言われたことはさっきの落下の衝撃で飛んでしまったらしい。

「全く・・・」
宮子の後頭部をポンと軽くどつきながら沙英がゆのの頭を撫で、ため息をつく。
「全く、肝を冷やしたよ。人騒がせな・・・。」
頭を撫でられると、ようやくゆのは宮子から降りて、「ごめんなさい」とひろと沙英にとりあえず頭を下げた。
「いや、まぁゆのが大丈夫なら何だっていいんだけどさ?」
面と向って謝られると照れくさくなるにか、沙英はゆのに視線を合わさずに少し言葉を濁す。
「さ、おうどんにしちゃいましょうか?」


「それでは、この宮子大先生が正しい月見うどんの食べ方を伝授しましょう!!」
麺が茹であがり、薬味や卵などが宮子の前に並べられる。
どうやらこれから、宮子がお月見(うどん)講座をやるみたいだ。
ゆのたちの拍手が起こり、少し上機嫌の宮子大先生。
まず、ゆでたうどんを丼に入れて、海苔を敷いてから、生卵を手際よく海苔の上に割落とす。そして、汁と薬味を添える。
「ほら、出来上がり!!」
僅か1分足らずで作ったうどんをゆのに差し出す。
「わぁ、美味しそう。」
「本当だね。普段料理なんか作んないのに・・・。」
感心しながら、「いただきます」と手を合わせ、うどんをすする。
「あら、オイシイ・・・。」
「私、月見うどんって、鍋焼きみたいのしか食べたことなかったですよ。」
無邪気に笑うゆのに宮子は「甘い!」といった感じで指を左右に振る。
「ダメだよ。ゆのっち!卵に火なんか通したら黄身がが隠れちゃって月が見れないじゃん。」
「あ、そういえば・・・確かに。」
大発見をしたかのような表情で、ゆのは宮子を見る。
この時のゆのは本当にとことん月見にこだわる宮子を羨望の眼差しで見ていたのだろう。


そして、庭で団子、うどん、ジュースを飲み食いしながら、再び月を見る4人。
「でも、月があんなに奇麗なら、本当に月にウサギが住んでるのかも知れませんね。」
「あはは、本当にね?」
ゆのの本気なのか冗談なのか・・・恐らく本気で言っているであろうロマンチック発言に沙英は笑いながら同意する。
「多分・・・今頃自分たちの領地を奪還するため地球人迫害作戦会議が練られているんだろうね」
「み、宮ちゃん!!ウサギはそんなに攻撃てきじゃないと思・・・うよ。・・・たぶん」
少し自信が無くなって来たか、段々声を弱らせていく。
「あんたの発言はロマンがあるのやらないのやら」
やれやれといった感じで、含み笑いを浮かべる沙英とひろ。
「にしても・・・」
今まで月を見ていた宮子が不意にひろの方に顔を向ける。
「?どうしたの宮ちゃん。」
ひろの問いには答えず宮子は黙って5秒ほどひろを凝視した後再び月を見た。
「・・・和むなぁ。まんまるお月さん」
「宮ちゃん、それはいったいどういう意味?」

そして、その夜ゆののシャウトがひだまり荘周辺に響いたとさ。

おしまい。



あとがき


初めてひだまりを書きました。
宮子の扱いが難しい。天然な暴走・・・ちと極端すぎたかな?
時期に合わせてお月見ネタです。
因みにポケモン以外は原作よりです。この小説。
2次小説だからもう少しはっちゃけてもいいと思うがね。
まぁ内にはっちゃけるさ。

まだまだ、日本語勉強不足のため言葉足らずの部分はあるかと思いますがまぁあたたかぁい目で見守ってくれたら幸いです。


次回更新は9月29日、9月29日・・・9・月・2・9・日・・・になります!!


この日にポケモン1話、らき☆すた2話一気にUP予定です。

そして、この小説UP後はしばらく小説お休みです。
いい加減イベントの小説をやらないといけないんで(汗)
休みはなくともペースは落ちるので悪しからず。