小説

ひだまりスケッチ#2




雨。

この2、3日はこれでもかというくらいに雨が降り続いている。
今日はそのピークか、いつにも増して滝のような大雨だ。
そんな絶えることない雨音の中で必死に誰かを呼ぶ声が聞こえた。

「ミャーン。ミャーン。」

その声は通る人の耳に届くことはないのか、皆その声の主に見向きも見ようとしない。
その内、その声も段々と乏しくなっていき、そして蚊のようなか細い声で最後の力を振り絞って鳴いた。

「ミ、ミャーン・・・」

そして、そのまま力尽きた様にその主は地に伏せた。


その時だった。

急に自分の体がひょいと持ち上げられた。

ゆっくりと瞳を開くとそこには傘も差さずに自分と同じようにびしょ濡れになった金髪の少女がこちらを見てにっこりと笑っていた。


「確保ぉ!!」
「ミ、ミャ!?」



#2「10月25日 あめときどきたぬき」




「宮ちゃん遅いなぁ。」


ここはひだまり荘。

その2階の1号室の住人・ゆのは帰ってこない隣人であり親友の宮子の心配をしていた。
今日は珍しく宮子が用事があるからという理由でゆのは先に帰宅したのだ。
宮子曰く「すぐに追いつく」とのことだったが、ゆのが帰宅してから既に1時間経っている。

「やっぱり、迎えに行こうかなぁ?」

ゆのが、乾かしてあったレインコートを再び着ると、玄関に向かった。


その時だった・・・。


ゆのがドアノブに手を掛けるとほぼ同時に扉が勝手に勢いよく開いた。
ゆのは思わず扉に釣られて勢いよく前に出てしまい、ボンと前の壁にぶつかってしまった。
その壁とはさっきまでゆのが心配していた宮子。

「宮ちゃん!!」

「やっほー!ゆの!!」

ゆのの顔がひんやりとした感触を覚えた。
よく、見ると・・・というか明らかに宮子の制服がびっしょりと濡れているのに気がついた。

「宮ちゃん・・・傘は?」

「それが聞いておくれよ実は・・・」


その時、宮子のお腹の辺りがゴソゴソと動いた。

よく見ると宮子のお腹が少しぽっこりと出ていた。

当然、ゆのはそれに気づいた。

「え、えっと・・・おめでた!?」

「?」

慌てるゆのの前に猫が宮子の制服の中からひょっこりと顔を出した。

「ミャー!!」

「・・・みゃ・・・」

固まるゆの・・・。

「こいつ、さっき拾ったの。」

宮子が猫の頭を人差し指で撫でながら言う。

茶色い猫で、右目の所に大きな黒い斑がある。

首輪も付いているのでノラではなさそうだ。

「宮ちゃん・・・ちょっと・・・ちょっとでいいから抱かせて?」

ゆのの言葉に少し考える宮子。そして・・・

「・・・ゆのがいいのなら。」

「へ?い、いや・・・宮ちゃんじゃなくて猫を抱かせて欲しいなぁって・・・」

宮子に猫を譲りうけ、そっと抱きそして、初めて気づく。

「この子・・・元気ないね?」

「雨の中行き倒れていた。」

「大変!!早く体温めないと!!」

あっさりという宮子とは対照的に大慌てに部屋に戻るゆの。


そんな騒ぎに気づいたのか下の階の住人のひろ・沙英がやってきた。

「なに?なに?なんの騒ぎ?」

「うわっ!宮ちゃんびしょ濡れ!?」

ひろの目にまず飛び込んできたのは今にも風邪を引きそうな宮子。

「ちょっと、この時期にそんな恰好してると風邪ひくわよ?」

「早く着替えておいで?」

宮子は言われるまま・・・というか沙英に半ば強引に部屋へと連行された。

「あ、ひろさん!!」

「あら、ゆのさん・・・今からお出かけ?」

玄関の騒ぎにひょっこりと顔を出すゆのは未だにレインコート姿のままだ。

「あ、いえ・・・実は。」

すると、隣からドタドタと慌ただしい音がすると、着替え終わった宮子がやってきた。

「ゆのー猫まだ無事?」

「猫?」

ひろと沙英が互いに顔を見合わせる。

「この子です。」

ゆのが部屋からタオルにくるまった猫をひろと沙英に見せた。

どうやら、今は体を温めているようだ。

「可哀相に・・・かなり弱ってるわよ?」

「ほんとだ。こりゃ大変だ!!」

一通り見せるとゆのは再び猫を部屋の中に戻した。


「よし、これよりひだまり子猫救出前線を開始します!!」

不意に宮子が大きな声で叫ぶ。

ぽかーんと口を開く一同。

「じゃあ、とりあえず私は沙英さんと猫の体を洗いっこするから!!」

「その言い方やめぃ!!」

こつんと宮子の頭を叩く沙英。
しかし宮子の意見には賛同の様だ。
洗う準備なのか腕巻くりをしている。

「で、ひろさんが人肌に温めた粉ミルクね!」

「う、うん分かった。でも粉だったら買いに行かなきゃ!!」

そう言いながら、ひろは小走りで階段を降りていった。

「あ、あの宮ちゃん・・・私は?」

まだ指名されてないゆのが遠慮がちに聞いてきた。
ゆのを見て少し考える・・・というか固まる宮子。



「ゆのっちは葉っぱを拾ってきて?」

「葉・・・?」





そんなこんなで始まった子猫救出作戦。

結局ゆのの与えられた指名は段ボールを使った子猫の即席ベット。
すぐに壊されるのは目に見えているが、それでも弱っている猫が寝る分にはあまり問題がないだろう。
30分が経ち、ひろがミルクをもってやってきた。
宮子たちも丁度お風呂から上がって来た。
ゆのの方はあとは毛布を入れるくらいだろう。

「どう?子猫ちゃんの様子は?」

早速ひろは子猫の顔色を伺う。
猫なのでよくは分からないがさっきよりかは落ち着いた呼吸だ。震えもない。

「宮ちゃん、毛布入れたよ?猫さん寝かしてあげて?」

「よしきた」

宮子はそっと、ゆの特製ベッドに猫を寝かせた。
子猫はスーと小さい寝息をたててそのまま眠りに落ちた。


ゆのたちもようやく落ち着き、ひろが淹れたお茶と持参した茶菓子をほうばりながら宮子にこの猫をここに連れて来た経緯を聞く。

「いやー単純に学校の帰り道にね拾ってきただけでそんなに期待されるほどの壮大な意味はないよ?」

「誰もそんな理由求めとらん!!」

「ここで飼えないでしょうか?」

ゆのが眠る猫を撫でながら遠慮がちに聞いた。

「うーん・・・あの大家ならOKしてくれそうだけど・・・」

「・・・けど何ですか?」

途中で言葉を詰まらせる沙英にゆのは首を傾げる。

「その猫・・・首輪付いてるでしょ?」

「・・・あ、ホントだ。」

ゆのは首に付いている緑色の首輪にようやく気付く。


そして・・・気づく。

この猫には既に飼い主がいることを・・・。

「その猫体洗う時も全然私たち怖がらなかったし・・・きっと人間慣れしてるんだよ。」

「多分、ひとりで散歩に行ったはいいけど、迷ったりして家に帰れなくなってたのよ。」

ひろと沙英の言葉にみるからに落ち込んだ表情を見せるゆの。

「そうですよね・・・この子もきっとご主人さまの所に帰りたいですよね・・・。」

ゆのは深いため息を着くと、吹っ切れたかのような顔でみんなに笑顔を向ける。

「探しましょう!この子の飼い主!!」

少しさみしい思いを引きずりながらもゆのはこの猫を元の場所へ帰すことを決心する。

そんなゆのの表情に沙英やひろも笑顔を向ける。

「でもさ・・・やっぱり、『この子』じゃ、不便だから私たちだけの名前を決めとこ?」

宮子の唐突な案には珍しく全員が賛成した。

そして、4人で色々な意見が飛び交う。

そして、決まった名は・・・


「決めた!『たぬき』にしよう!!」

宮子が思い着いたように立ち上がり、勝手に名前を決定させる。

別に誰も激しく反対もしなかった。

恐らく外見的にもしっくりとくる名前だからだろう。

ゆのの「それならポン太は?」という可愛らしい意見は宮子に特に理由もなく一蹴された。



その夜・・・。

結局、たぬきはゆのの部屋で過ごすことになった。

ひろがミルクと買ってきた砂トイレを設置し、段ボールベットを、自分の布団に極力近づけるゆの。
最初は添い寝をしたかったらしいが、それは沙英に激しく反対された。
最初は名残惜しそうにしていたゆのだったが、宮子に、
「ゆのっち、うっかり踏みつぶしそうだもんね?」

と言われてから、納得したこのようにきっぱり諦めた。
「・・・ねぇねぇたぬきくん?」
ゆのが天井を見ながら静かに横のベットで休む猫・たぬきに話しかける。


「・・・たぬきちゃんかなぁ・・・たぬきくん?」
オスメスの判別で混乱するゆの。



(確認した方が早いかな?)



ゆのはそーっと布団から這い出て、舌で毛繕いするたぬきの股を開く。
「そして、おそるおそる、覗き、確認する。」

そして、ゆっくりと股を閉じさせ、再び布団に顔までくるまるゆの。




(・・・あ、あった。)




激しく、自分のやってしまったことを後悔してしまったようだ。



少女が大人の階段を上った瞬間だった。


続く。




あとがき


更新遅れましたぽちゃです。

パソの前にも座れなかった状況でして・・・

そんなことよりひだまりの小説第2弾です。

ホントは一話で終わらせる予定でしたが諸事情のため2回に分けました。

しかもオチがひどい・・・。

ひだまりファンの人ごめんなさい!!

ぽちゃキッド頑張ります!!

あと、現在オリジナルの話を考案中・・・

でも当分先です。

自分、準備期間を多く要するんで、年明けになるかもです。

次回更新はらき☆すたの霊林探訪AをUP予定ですのでよろしくです!!

じゃ、また!!