小説
ひだまりスケッチ#2−2
晴れ。
ひだまり荘の住人面々は先日宮子が拾ってきたネコ・たぬきの飼い主を捜すために行動を開始した。
そして、宮子と沙英は早朝から駅前に来ていた。
「どこに貼ればいいの?」
宮子が手にしている紙は沙英とひろが作った「お尋ね猫」と書かれた紙だ。
「あそこの掲示板みたいなところでいいんじゃない?」
そう言いながら沙英は駅前に設置されているいろんな広告が貼り付けられている掲示板を指さす。
「許可とか取らなくていいの?」
「うん。いいんじゃない?大体困った人とかがこういうのを貼るために設置されたものだから・・・過激なものとかじゃなかったら大丈夫だと思うよ?」
宮子の質問に沙英は自信なさそうに答える。
「ふーん・・・沙英さん過激なものってたとえばどんな?」
宮子の質問に急に顔を紅潮させる沙英。
「へ?へ?そ、そりゃ・・・あんなものとかじゃないの・・・かね?」
「・・・かね?」
沙英はかなりパニクってるようだ。
#2−2「10月31日 ほくほくたぬきそば」
役所前ではゆの、ひろがポスターを貼っていた。
ゆのはなぜか猫のたぬきまで連れて来てしまった。
「ゆのさん、やっぱりたぬきを置いてきた方がよかったんじゃない?逃げないように抱いてるの大変でしょ?」
おぼつかない手つきで猫を抱くゆのをひろは心配そうに見る。
「い、いえ・・・いいんです。大人しくしてくれてますから・・・それに、もし飼い主さんが近くにいたらこの子が何かしらの反応してくれるかな?なんて・・・。」
照れ笑いするゆのにひろは驚いたような顔を浮かべる。
「ゆのさん・・・」
「あ、いや・・・でもやっぱりそんなことあるわけないですよね?猫は人より家に懐くっていうし・・・」
目を見開くひろにゆのは両手を前にさっきの自分の言葉を否定するかのようにぶんぶんと振る。
「ゆのさん・・・たぬきは?」
「あれ!?」
いつの間にかゆのの腕からたぬきの姿は消えていた。
慌てて周りを見渡すゆのとひろ・・・
「あ、いた!!」
ひろが駐輪場で自転車の間を巧みに移動するたぬきを発見する。
ゆのはそれを確認するや否や急いで四つん這いになり、自転車の間に逃げ込んだたぬきを捕まえようとする。
しかしびっしりと並べられた自転車に阻まれてたぬきに手が届かない。
「出てきてたぬき〜!!」
必死で呼びかけるがたぬきはこっちに来る気配がまるでない。
「う〜・・・よいしょ・・・」
困ったゆのは思い切って強引に手を伸ばし、道をこじ開けてたぬきに近寄ろうとする。
その時、悲劇は起きた。
一人の男性がゆのがいる自転車5つ分左の自転車を取り出したときに、その横の自転車がグラッと右に不穏な動きを見せた。
「あ・・・」
男性が気づいた時には後の祭り状態だった。
まるでドミノのように倒されていった自転車はゆのがしゃがみ入っている場所まであっという間に到達した。
「・・・!!」
ゆのの後頭部自転車が直撃し、そのままゆのは自転車の下敷きになった。
「ゆ、ゆのさん!!」
慌てて、ひがゆのを助けようと自転車を起こす。
たぬきは・・・難を逃れ、倒れた自転車の・・・ゆのが埋もれた場所の真上に避難していた。
「え?たぬきが逃げた?」
駅のチラシ貼りも終わり、次のポイントへ向かう途中だった沙英と宮子はひろからの電話でたぬき脱走の報せを受けた。
「とにかく沙英や宮ちゃんも探して!!こっちはこっちで探すから!!」
「わ、わかった!!」
携帯を切ると、沙英と宮子はUターンして急いで役所の方へと向かう。
「でも猫が行きそうな所ってどこかな?」
宮子が走りながら沙英に尋ねる。
「え・・・?そりゃ食べ物探してゴミ箱とか・・・屋根の上で寝てるとか?」
「・・・あいつ今の暮らしに不満でもあるのかな?」
「いや・・・そういうことじゃないと思うよ・・・?」
一方のゆの・ひろ組
「うぅ・・・ごめんなさい!!」
ゆのが頭を冷やしたハンカチで抑えながら、ひろにたぬきを取り逃がしたことをひたすら謝っていた。
しかし、それをひろは優しく受け止める。
「ううん・・・ちゃんと見てなかった私も悪いし・・・」
「見てなかったっていうのなら私だって・・・!!」
「あぁ・・・ほら私、たぬきが大人しくしてるからつい油断してて・・・」
「いえ・・・油断っていうなら直に抱えてた私の方が・・・」
「あぁ・・・ボーっとしてて・・・」
「私もひろさんがチラシ貼ってる間ずーっとボーっと・・・」
「あぁ・・・」
「・・・・」
あまりに空回りする自分のフォローにひろの言葉は自然となくなっていた。
やがてそれは沈黙へと変わっていった。
「と、とにかく探そうゆのさん!!」
「はい・・・。ごめんなさい・・・。」
無理にテンションを上げて二人はようやくたぬきの捜索を開始した。
一方のたぬきは・・・特に当てもなさそうに役所から数百メートル離れたところをブラブラと歩いていた。
沙英の予想とは反し、ゴミ箱には目もくれず更には屋根や塀の上にも登らず、普通に道路の真ん中を堂々と歩いていた。
「フニャ!?」
歩いていると不意にたぬきの顔に砂埃はかかった。
どうやらたぬきは掃除中の箒の起こした砂埃を浴びたらしい。
「あ・・・」
声を上げるその人物に反応し、たぬきは上を見上げる。
そこには竹ぼうきを持った小学生くらいの少女が驚いた表情でこちらを見ていた。
「あ、宮ちゃん!沙英さん!」
「あ、ゆのっち〜ひろさ〜ん!!」
捜索開始30分経過・・・とある道の一角でゆの達4人は合流した。
互いに収穫ゼロなのを確認し合うとため息がシンクロした。
「さて・・・どうするか・・・?」
「うーん名探偵・宮子曰くここにいる気がする。」
お手上げ状態のゆのたちに宮子は妙に自信満々といった感じにある建物を指さした。
・・・そば処”雲海”
「・・・えっと宮ちゃん?お腹空いてるの?」
当然ながらそんな悠長なことをしている余裕がゆのにはなかった。
しかし、それと反比例してゆののお腹はさっきからうるさいくらいに鳴りっぱなしだった。
実はゆの、今朝寝過して朝を食べずにチラシ貼りに行ってたのだ。
因みに現在の時刻は14時07分・・・。
「・・・どうするゆのさん?」
宮子の提案にひろはゆのに結果解答を振る。
これはさっきから一番熱心にたぬき探しに取り組んでいたゆのの意思を尊重しようとしたのとさっきからここまで聞こえるゆののお腹の音の為だった。
「たぬき探し続けます!!宮ちゃんごめん!!後でまた食べよう?」
ゆのが決意を固めた直後・・・
グギュルルル〜・・・
そんな彼女を嘲け笑うかのようにお腹が一段と大きい音で鳴った。
その音にゆのの意志は若干揺らぐものの・・・すぐに持ち直す。
「だ、大丈夫です!!」
グギュ・・・ボン!!
再び鳴り始めたお腹に若干の嫌気が差したのかゆのは凄まじい反射で自身のお腹を勢いよく殴った。
「だい・・・じょ・・・です」
当然ながらゆのはその場で蹲ってしまった。
「もういいから入ろう?」
沙英が見かねて蹲るゆのに手を貸した。
「じゃ、じゃあ・・・作戦会議を・・・」
「はいはい。」
少し青い顔をしながら沙英に手を取られながらゆのは納得した形で店へと入った。
「はぁ・・・そばそば!」
宮子が先に暖簾をくぐると、宮子の視界にあるものが飛び込んできた。
それ故、そこで宮子は無意識に動きを止めてしまう。
後ろのゆの達は急に止まる宮子に何事かと思い、前へと出てその理由を確かめた。
「あ!!」
宮子の視線に映ったもの・・・。
それは、さっきまで必死に探していたお騒がせもののたぬきだった。
たぬきは店にいた少女の腕に大人しく抱かれている。
あまりのことにゆの達3人は一斉に宮子を見る。
「み、宮ちゃん・・・すごい。」
「まさか、本当にいたとは・・・」
「でも、これでひとまずは解決ね?」
とりあえず大事にならず済みほっと胸をなで下ろした。
「あ、あの・・・?」
いきなり自分を見て驚き、騒ぐ彼女たちに当人であるたぬきを抱えた少女は恐る恐る声を掛ける。
「あ、私冷やし中華!!」
宮子が見事に少女の腰を折るかのようにいつのまにか席につき注文を入れた。
「は、はぁ・・・」
あっ気に取られてばかりで少しの混乱に陥った少女にゆのが深々と頭を下げた。
「あの、たぬきを見つけてくださってどうもありがとうございます。」
「へ?たぬきって?まさか・・・この子こと?」
「はい・・・そうですけど?」
「・・・?」
そう言うと少女は何かを察し、ゆのたちにかくかくしかじかの事情を聞いた。
「・・・でして・・・今飼い主さんを探している途中でして・・・。」
「あぁ〜・・・それ私だわ!!」
事情を聞き、少女は微笑ましくそう言った。
その言葉の意味を確認するよう言った。
「私って・・・君がこの猫の飼い主?」
「はい!私です!!」
「宮ちゃんすごいわね・・・」
ひろは横でそばを今か今かと待つ宮子を横目でちらっと見た。
偶然といえ宮子のその勘の鋭さに3人は改めて驚いた。
「じゃあ、あなた達がこの猫を拾って保護して下さったんですね?ありがとうございます!!」
今度は少女の方が深く頭を下げた。
「私の名前、空って言います!!この子はポン太!!」
「ポン太・・・?」
ゆのはそのたぬきの本名に敏感に誰よりも反応した。
それは猫の名前を付けるときに一番推して、そして、最終的に宮子に却下された名前だったからだ。
たぬきの本名と自分の考えが同じになぜか嬉しくなり、自然と表情が緩んでしまうゆの。
その瞬間隣にまったりと座る親友が信じられないことを言い出した。
「いやーいい名前ですなぁ。」
ゆのはそんな宮子の言葉に少しムッとした顔で宮子の顔を見た。
さすがのゆのも少しご立腹のようだ・・・。
「あ、注文お聞きしますね?」
少女は本業を思い出したかのようにバッと立ち上がり、ゆのたちの注文を聞く。
「私はてんぷらそば!!」
「うーん・・・じゃあわかめうどんにしようかしら?」
「私冷やし中華大盛り!!」
沙英、ひろ、宮子と順番に注文を言っていく。
「えーと・・・私は・・・じゃあ、たぬきそばで!!」
「へ?」
4人が一斉にゆのの顔をみた。
その一斉に自分に向けられる視線にゆのはビクリとすくんでしまった。
「え?・・・えっと?私、なんか変なこと言いました?」
「べ、別に!!」
慌てて否定するみんなにゆのの頭のクエスチョンが絶えることはなかった。
そして・・・昼食も終わり・・・店を後にしようとした。
「じゃあ、私たちお暇しますね?」
「ばば〜いたぬき!!」
宮子が空に抱かれている猫に大きく手を振ってみせる。
「ほんとにありがとね?今度あなた達の所にお礼に行かせて?」
そう言いながら空はゆのの肩をポンと叩いた。
それにゆのは妙な違和感を感じていた。
そして、それは空が沙英やひろとの会話の中で気がついた。
「じゃあ、どこに住んでるんですか?」
「山吹高校の・・・山吹高校の前のひだまり荘ってところに住んでます・・・」
ゆのが空に少し沈んだ感じにその質問に答えた。
学校名をやたらと強く推すゆのに沙英やひろは沈むゆのの理由がわかったらしく可笑しくてつい笑ってしまった。
そして、空もゆのの心情をいち早く察した。
「あ、こ、高校生でしたか!?す、すいません!!どなたかの妹さんかと!!」
空、14歳は自分の大いに失礼な勘違いにポン太の一件よりさらに深く頭を下げた。
しかし、ゆのは失礼とかそういうのはどうでもよかった。
ただただ小学生くらいに見られたのは非常に悔しかった。
「じゃ、じゃあ・・・ホントにご迷惑かけちゃってごめんなさい!!」
「ううん・・・そんなこと・・・」
ゆのがそれは否定する。
たったの二日ではあったがポン太との日々は楽しかった。
それだけは事実だったからだ。
たった二日しか一緒にいないのにポン太・・・たぬきとお別れすると思うと今にも泣きそうな思いだった。
「あ、あの・・・もしよかったらまたひだまり荘にポン太を連れて遊びに来てね?」
ゆのが笑顔で言う。
それに合わせて空も・・・そしてポン太も笑顔でうなずいて見せた。
「あーゆのっち後頭部に大きいタンコブあるよ?どったの?」
「み、宮ちゃん!!あ、これはその・・・!!」
最後の最後にゆのはポン太にしてやられた頭の痛みを思い出した。
終。
あとがき
どもぽちゃです。
ひだまりようやく3話です。
なんかおかしいとこばっかだったらごめんなさい!!
ゆのが思うようにゆのっぽくなかった?
お腹鳴らすシーンはゆのって感じより宮子って感じかも!!
最初この話、宮子メインの話にしたかったんだけどなんかゆのの方向になっちゃった。
感動も薄く・・・空やポン太も存在が薄く・・・
まだまだですわ。
もう少しキャラを立たせることを頑張ります。
そして・・・ひだまり×365がめっちょ楽しみです!!
はぁもう1年くらいしてくんないかなぁ(笑)
あすみん好きだー!!
うめてんてーも好きだー!!
はぁ・・・叫んだところで・・・
次回のひだまりスケッチ更新は来年になります。
年末には・・・とかじゃなく来年です!!
じゃ、また