小説
「ゆの大丈夫?」
「はい・・・なんとか。」
長いことバスに揺られること2時間。
ようやくゆの達4人は目的の温泉旅館へとたどり着いた。
入口の扉をくぐると、そこは暖かみある木の匂いが広がり、綺麗な女将さんが笑顔で出迎えてくれた。
入ったとたんに癒しの空間が広がる中でゆのも少しずつ元気を取り戻してきた。
「ようこそ・・・”如月”へ。ゆの様ですよね?お待ちしておりました。」
「あ・・・こ、こちらこそよよよよろしくお願いします!!」
いつにも増して気合いの入ったゆのの挨拶であった。
ひだまりスケッチ#6「2月10日 ひだまり旅行記」
部屋の着き、ひとまずは腰をおろす4人・・・。
「丁度お昼かぁ・・・。」
沙英がふと時計を見る。
時計が12時を回っていたと知ると無性にお腹が減ってくる。
「これからどうする?とりあえず先に昼ごはんにするけど・・・?」
「私、少しこの辺散歩したいです!バスも出てるみたいですし・・・。」
ゆのの意見にみんなが納得し午後からは近辺をブラリすることとなった。
「うわぁ・・・すごい川ですね・・・。」
少し山の方へと足を運んでみると轟々と唸る大きい川がゆのたちの足元流れていた。
ゆのはその迫力満載の川を記念に写真を撮ろうと携帯のカメラを構える。
「ん〜・・・なんか構図がイマイチ・・・。」
満足する画が撮れずゆのは少し背伸びをしてみる。
その足は徐々に地面から離れていき・・・。
「ちょっとゆの!危ない!!」
「へ?」
慌てた沙英が止めに入った時にはゆのの体半分は外へと出ており、いつ転落してもおかしくない状況となっていた。
当のゆのは沙英に言われて初めて今の自分の状況に気がついたらしく、足をバタつかせおおいにテンパった。
「・・・・・!!!!!」
「ゆの、暴れないで!!」
「ゆのさん、ホントに落ちちゃうから!!」
その後なんとかしてゆのをひきずり下すことに成功した。
沙英とヒロは息を切らし、ドッと疲れたようにその場に座り込んだ。
「ご、ご迷惑お掛けしました。」
ゆのは地面に座り込む二人にひたすら平謝りだが、自身も落ち着きを取り戻せずにいた。
「ところで、宮ちゃんは?」
宮子の姿がないことに気がついた頃にはゆのの息はだいぶ落ち着きを取り戻していた。
辺りを見渡しても宮子の影も形も見えない。
知らない土地での迷子を懸念していた沙英やゆのの傍でにヒロは逸早く手がかりをつかんでいた。
それにゆのが気づいた。
「ヒロさん、さっきからずっと向こうの道を見てますけどどうかしたんですか?」
「あれ?なんか甘い匂いがしない?向こうの方から・・・甘くて香ばしい醤油の香りが・・・。」
ゆのたちが鼻を利かせてみてもヒロの言う香りは嗅げなかったが、確実に宮子のいる場所が分かったのでよしとする。
ゆのたちは橋を渡りきり、舗装された山の道を歩いていく。
すると、橋から400M弱はある場所に一軒の茶屋があった。
宮子はそこにいた。
「宮子、何してんの?」
宮子は店の周りの地面を見渡しており、まるで何かを探しているようだ。
「あ、あった!!」
そう言うと宮子は地面に転がっている一本の団子串を拾い上げた。
恐らく客が食べた後に風でも吹いて転げ落ちたのだろう。
「宮ちゃん、ばっちぃよ?」
ゆのがそう言うと、宮子は外に出ている椅子に腰を掛けると、なぜかとても満足しそうな顔をし始めた。
「宮ちゃん、何やってるの?」
宮子の行動の真意が分からないゆのに宮子はその表情のままゆのに言った。
「ゆのっち、早く写真撮って!!」
「へ?へ?」
宮子に言われるままに写真を撮るゆの。
この写真の意味が分からず宮子を除く3人は写真をみながら顔をしかめる。
その一方で宮子は実に満足そうだ。
「いや、写真の・・・思い出の中の私だけでも幸せにと思いまして・・・。」
「いや・・・それに一体何の意味が・・・?」
その後、沙英の計らいでちゃんと団子を食した宮子をはじめとする一行は次の場所へと向かった。
「”参道道”こちら・・・か。」
沙英が看板の文字を読むと同時にため息をついた。
参道道と呼ばれる先を見ると山の中の先の見えない階段が続いていた。
「ゆの、大丈夫?行ける?」
「あ、はい!!がんばります!」
ゆのはそう言い自分に気合を入れる。
そんな間に宮子が先先と足場の悪い木の階段を昇る。
それに続いてヒロ、沙英、そしてゆのが続く。
ふと横をみると、柵があまりに低く、酷いところでは柵すらもない。
そんな階段の横には一度落ちたらどこまででも転げ落ちそうな川とその奥の森の坂があった。
足場は上に行くにつれて不安定となり、沙英もゆのの手を繋ぎながら慎重に登って行った。
前の宮子の姿がどんどん遠のいていく。
「ゆのっちがんばれ〜!!」
ゆのを応援しようと宮子が下にいるゆのにジャンプしながら声をかける。
その動きは実に危なっかしい。
その時であった。
ズルっという音共に宮子の体が斜めになり、川、そして反りたった坂の方へと体が横向いた。
「ちょっと・・・!!」
「宮ちゃ・・・!!」
「とうっ!!」
ヒロの驚く声と共に、宮子はなんとか右足を踏ん張らせ、その場に留まることが出来た。
「セーフ!!」
「ほ・・・・。」
無事な宮子の姿に胸を撫で下ろすヒロ。
「もう危ないわよ!!」
「ご免ご免!!でももうだいじょぶ!!」
軽く怒鳴るヒロに笑顔で返す宮子。
そんな宮子の言葉にその遥か下から沙英が慌てたように返した来た。
「あんたのせいで、今度はゆのが落ちそう!!」
見ると沙英が体が傾いき、足半分がその坂にはみ出しているゆのを必死に引っ張っていた。
「ゆのさん!!」
「なんと!!」
どうやら宮子が落ちそうになったのをショックに体が固まり、そして無事な姿に緊張が解け、脱力したためにこのような事態になったらしい。
そんなこんなでようやく頂上・・・。
登り切った頃にはゆのの顔は色々な意味で真っ青だ。
「大丈夫?ゆの?」
「はい・・・。」
参道道を行った先・・・。
山の中腹からは隣の山が顔を覗かせており、そこからは変わった石が数か所に突き出していた。
見様によれば人の顔にも見えるその岩を見るために4人はこの山道を上って来たのだ。
「神様が宿ってるっていう岩かぁ・・・。」
宮子はそう言いながら岩に向けて手を合わせた。
それを見てヒロも同じようにして手を合わせた。
「食の神様〜!!私めに恵みをお与え下さいませ〜!!」
(美容の神様・・・後・・・後2センチでいいからウェストが細くなりますように・・・!!)
必死に神様にお祈りする2人の横で沙英がそこにあった看板に目をやった。
「えっと・・・”ここから見える岩にはそれぞれ神様が宿っています。右から商売繁盛の神様、学問の神様、そして縁結びの神様”・・・だって!!」
沙英が読み上げ、振りかえるとさっきまで一生懸命に手を合わせていた二人に姿は来た道・・・帰り道へと向いていた。
「じゃ、帰りましょ?」
「祈って損した。」
余りに現金な二人に沙英はため息をついた。
「バチあたりだなぁ・・・。女の子なんだから縁結びの神様にでも祈っときなよ?」
「じゃあ、沙英さんが・・・ぶっ!!」
宮子の笑顔の反撃は、見事に沙英の一撃チョップによって阻止された。
その後ろでゆのはとりあえず学問の神様が宿っているといわれる岩にだけものの3秒ほど祈りを捧げると、慌てて先行きそうな宮子達を追いかけた。
「もう、宮ちゃん待ってよ〜!!」
ゆのの声に立ち止まる宮子達。
「ゆのっち、ファイト!!」
登るときと全く同じことを言いながらゆのを励ます宮子。
けれど今回は足はちゃんと地面にピタリとついている。
「でも、降りるとなるとまた怖いわね?」
ヒロの言う通り、ただでさえ息が上がるような急な道を登って来たのだから帰りの下りにはそれ相応の恐怖がヒロにはあった。
「じゃあ、ゆっくり行こうか?」
「沙英さん、隊列変えない?」
先頭の宮子が手をあげそう言うと、沙英はチラッと最後尾のゆのを見ながらその意見に賛成した。
「じゃあゆのは3番目ね?」
そう言い沙英が後ろに下がりゆのを前にやる。
それと同時に宮子も下がり、ヒロを前にやった。
「私が前なの?」
宮子は大きく首を縦に振る。
「万が一の事を考えると、ヒロさんが後ろにいればいるほど被害が拡大するかなと・・・。」
「それは、どういう意味。」
「いや・・・単純に誰かが転げ落ちた時の威力を想定すると・・・」
山を降り切った頃には神様が宿っていた岩の数だけの瘤が宮子の頭から突き出していた。
「祈ってみる?」
宮子は自分の頭を指さし沙英勧めたがやんわりと断られた。
「いや・・・遠慮しとく。」
ご利益はなさそうだ・・・。
夕方くらいに旅館に帰って来ると、ゆのたちは早速温泉に入る準備を始めた。
「ゆの、行くよ〜!!」
準備万端に宮子はタライ桶に最小限の荷物で未だに準備をするゆのを待っていた。
「沙英さん、ヒロさんじゃあ先に行ってきます!!」
ようやく用意を済ませ、後から入ると言う二人を置いて温泉へと向かった。
それを見送るのは既に敷かれていた布団に寝そべるヒロと座椅子に深くもたれかかる沙英。
どうやらかなり体力を浪費し、すぐに風呂という気分ではないらしい。
「なんか、ゆのさん達見てると若いっていいなぁって思えてくるわね?」
「ヒロ、その台詞がもうなんかダメだよ・・・。」
羨ましそうな顔でゆの達が行った後を見つめるヒロに沙英は少し物悲しくなりながらため息をついた。
「わ!露天風呂だよ?」
露天風呂を見つけテンションを上げていくゆの。
早速突入する二人は勢いよく湯に飛び込んだ。
「うぅ・・・ちょっとお湯に浸かってない部分が寒いね?」
「そだね〜!!」
そう言いながら宮子は肩一杯まで身を湯に沈めていく。
「カポーン」
「うわ、宮ちゃん上手!!なんか雰囲気出るね?」
宮子が力なく言った効果音にゆのはささやかな拍手を送る。
そして、それと同時に一つの謎が浮かんだ。
「カポーンってよく漫画とかで見るけど普段あんまり使わないよね?なんでカポーンなんだろ?」
そう言い、少し考える二人。
「石鹸で滑った時に頭を打ってそのまま昇天した時の効果音とか?」
「宮ちゃん、それじゃ和めない・・・。」
震えるゆのの声からは既に情緒など無くなっていた。
お湯に浸かること10分。
ゆのはそろそろ回ってきたのか、出ようと腰を浮かせる。
そんな時、宮子がため息をひとつ漏らした。
「どしたの?宮ちゃん。」
上がろうと立ち上がったゆのは風の冷たさに身を強張らせながらため息つく宮子の方を見た。
「いや、露天水風呂とかあったら面白そうなのにと思って・・・!!」
「はは・・・それじゃただのプール・・・!!」
そう言うや否やゆのは素早く湯に体を引っ込めた。
「あれ?上がんないの?」
「いや、想像したら急に寒気が・・・。」
そして、夕飯も終わりもう寝ようかという頃合になったころ。
「カニ美味しかった〜!!」
宮子は大満足の笑顔で布団に大の字で寝転がった。
「温泉も気持ち良かったねぇ?」
あの後、ゆの達と入れ替わるように温泉に入ったヒロたちは浴衣に着替えていた。
しかし、宮子とゆのは何故か浴衣ではなく普通のパジャマだ。
理由としては・・・
「私も浴衣着たいんですけど寝てたらすぐに乱れて、半分脱いじゃうから・・・」
がゆの。
「私も浴衣着たいんだけど昔、それで帯が首に絡まったことあってそれから浴衣は着ちゃダメだって言われて・・・。」
が宮子である。
「寝る前になんかやる?」
「そうですね?何します?」
「麻雀やろ!!麻雀!!」
と、宮子。
大声で言う宮子の案に誰も首を傾げた。
「麻雀って・・・・宮ちゃん私、ルール分からないよ?」
「それに卓も牌もないじゃん・・・。」
そう言う沙英たちをよそに宮子はやる気満々だ!!
「実は私は気付いていたのだよ!!ほいっ!!」
そう言いながら宮子は和室に会った四角机の上の板部分を持ち上げた。
「な!?」
そこから現れたのは緑色の卓と4人分の麻雀牌・・・。
「なんで麻雀牌が・・・。」
「これで役者は揃ったよ?やろうやろう!!」
乗り気な宮子。
しかし肝心のルールが分からない。
「ヒロさんルール分かります?」
「全然よ!!でも・・・」
「でも?」
するとヒロは沙英に顔を向けた。
「沙英は知ってるわよね?」
「へ?そうなんですか!?」
「さすがおっとなぁ〜!!」
「えぇ〜い!!またそうやって無駄に茶化すな!!」
驚きと羨望の眼差しに顔を赤く染めていく沙英をくヒロがひっそりと笑い楽しんでいた。
結局間をとってドンジャラをやることになり、最初は少しのつもりがゆのの妙に頑固な負けず嫌いなことが祟って結局明け方までやることなってしまい・・・。
そして翌朝・・・
「楽しかったわね・・・。」
「うん・・・ホントに・・・。」
「あぁ・・・宮ちゃんまた揃っちゃったの?むにゃ・・・。」
「zzzz・・・。」
帰りのバスの車内。
昨夜のドンジャラ大会で睡眠不足もあり、ゆのと宮子はすやすやと寝息を立てていた。
しかし、昨日のドンジャラ大会でそれまでの楽しい(?)思い出は一気にかき消えてしまった沙英とヒロ。
残ったのは疲労感のみとなった。
「はぁ・・・せっかくきた旅行なのにねぇ・・・。」
「まさか最後の1日を寝て過ごすなんて・・・」
そう・・・起きたのは昼の1時ですでにチェックアウトの時間が迫っており、朝食まですっぽかしてしまったため脱力感は倍増である。
「でも・・・こんなことでもまたこうやってみんなで行きたくなるから不思議だね?」
「・・・ふふ。そうね?」
そんな事を思いながら二人は幸せそうなゆのと宮子の寝顔を見ながら直にすやすやと静かに寝息をたてていた。
バスはそんな幸せ空間広がる4人を乗せたまま、ひだまり荘へと向かっていった。
忘れ物は・・・なにもしてないはず!!
終。
あとがき
どもぽちゃです。
長らくアップしてなかったのにこんなオチですいません!!
旅行っていうか遠足って感じですよね?
まぁぽちゃの旅行記なんで・・・その辺はご了承ご了承!!
あ、麻雀はやんなかったです。
ルール分かんネーですから!!
でも覚えたいです。
ひだまりスケッチ2期までにもう一本挙げたかったがむりぽ!!
まぁその内思いついたら挙げますよ。
じゃ、また!!