小説

戦血のクイーン



我、紅蔭=クーファネットの真血の従者となることをあなたの血を、証としてここへ残しなさい。



第二話 鮮血の誓い。




〜紅蔭〜




 四月二日午後一八時二三分現在、桜崎家では・・・

「ソーサー?」

春はいきなり現れた謎の少女・紅蔭のいきなりの発言に驚いた。

「で?なんのゲームなんだ?」

春の出した紅蔭に対する返答がこれだった。

しかしこの春のゲーム発言は紅蔭の怒りを買ってしまった。

春にも伝わったのだろう。さっきにもましてきつくなった彼女の目つき・・・。そして、春に向けられた只ならぬ怒りのオーラが・・・

(・・・失言だったか?)

「・・・ゲーム?」

静かに春を睨みながらボソッと呟いた。

「あなた・・・何を舐めたことを言ってんの?」

「それは・・・こっちの台詞では?」という言葉をグッとこらえなんとかこちらが話の主導権を握ろうと、少しずつ冷静さを取り戻しながら、話し始めた。 

「え〜何だ?まぁさっきのゲームったんは悪かったよ・・・。とりあえずはまず俺の質問に答えてからそっちの話に移ってもらえると嬉しいんだが?」

春のこの申し出に紅蔭は意外にも素直に受け入れた。

どうやら話せばわかる子らしい。

「とりあえず、お前は一体何者なんだ?なんで俺の家にいるんだ?」

紅蔭はどうやらもっと別の質問がくると思ってたのか、明らか拍子ぬけといった表情を一瞬見せ、仕方なしといった感じ春の質問に答え始めた。



「私の名前はさっき言った通り紅蔭=クーファネットで・・・」

「クーファネット?外人のハーフか?」

紅蔭の話を遮るように春が質問を入れる。

「私はこの地球とは別の『もう一つの地球・ヘルへヴン』の中央国家『ノーワール』にあるソーエル第七学校二九期生で・・・」

(あれ?無視?)

サラッと流す紅蔭に春は若干の苛立ちを覚える。

恐らく紅蔭は話の途中で横から槍を入れられるのは気に食わないのだろう



〜指輪〜




そんななか喫茶『神無月』では・・・店の裏にある校庭ひとつ分はあるのでは?くらいの庭で水色ツインと金髪ポニーの二人の女と莉亜と莉麻&美咲が対峙していた。

「とりあえず、お名前をお伺いしたいんですが・・・?」

美咲が遠慮がちに相手の名前を聞いてみた。

「そうね・・・」

案外あっさり答える水色ツイン。

「私は亜子=アーカイブ・・・13歳」

律儀にも年齢まで答える亜子と名乗る水色ツイン

「ほら、瑛子も名乗って?」

亜子は後ろの大学生らしき金髪ポニーの女性に紹介を促した。

「え?えぇ。私は冬(ふゆ)月(づき)瑛子(えいこ)。じゅ、一八よ。」

少し緊張気味ではあったがこちらも年齢まで答えてくれた。

互いに紹介を済ませると、美咲はポケットから緑色の指輪を取り出し、右手の薬指につけた。

「指輪?」

紅蔭の話を一通り聞き終わった春は、紅蔭から赤い石が埋め込まれた指輪を差しだされた。

紅蔭の長~い話を簡略的に説明するとこうだった。

彼女は魔術を扱う国・・・『ノーワール』の才ある魔術師見習い・通称『ヴィザー』。その選ばれし『ヴィザー』計百人が魔術師達が憧れる『ノーワール』三大勢力である魔術国家直属特殊部隊『RoA』に入るべくこの地球・・・紅蔭の世界で言う『ウィス』で選ばれた人間・・・通称『ソーサー』とともにサバイバル形式で戦い、最後まで生き残った三人が見事『RoA』に入隊できるのだ。


すまん・・・恐らく・・・いや、確実に説明不足だったので、紅蔭に補完してもらおう・・・。


「その指輪はソーサーの証・・・私と血の契約を交わしたときに初めてその力を発揮されるの。」


「血の契約って・・・?」

紅蔭の態度が態度だけに「血の契約」という言葉に春はいささか不安を覚えてしまう。

「さっきもいったっけど、この戦いは『ラ・トストテス』という私たち魔術師のたまご『ヴィザー』が『RoA』に入るための試験なの!合格するのにはあなたの協力が必要なの!」

もうづべこべ言わずにさっさと言う通りにしろと言わんばかりに紅蔭は春に迫った。

「んなこと言われてもなぁ・・・。」

紅蔭の必死?な詰め寄りに顔を渋らせる春。まぁ当然といえば当然である。


(大体何なんだよいきなり・・・魔法使い?しかもなんだって?俺の力が使えないと魔法が使えない?くそっ!偉そうに言う割には説明下手だな。)

色々考えた春は・・・

「そ、その血の契約ってのは・・・一体何やるんだ?」

とりあえずこいつは一番これが気になるらしい。

「そうね・・・少なくともあなたが考えてるような痛い思いはしないわよ?」

それを聞いてとりあえず春は胸を撫で下ろす。

「これで、貴方の指の節目を切って、それを私が一滴舐める・・・これで契約完了・・・ね?」

節目って切ったら地味に痛いんだよな・・・。とかおもいながら春は、紅蔭が取り出してきた銀色のナイフを受け取った。どうやらこれで切ってくれということらしい。

「・・・つまり、そのクイーンテットがお前らの憧れの的で、それになるには『RoA』の入隊が一番の近道・・・そういうことか?」

「まぁ若干違うけどまぁそんなところよ?目が点になってた割に飲み込みが早くて良かったわ。」

「まぁ・・・な。まぁ信じてるかどうかは別だがな。」

ソファにドッと座り込む春は凄く冷めた言葉でいった。

「じゃあ、証明してあげましょうか?」

「・・・?」

紅蔭はそういうとガラッと窓を開けた。

「・・・?」

紅蔭の不可解な行動に春は首をかしげる。証明ってことは・窓から箒で空でも飛ぶのだろうか?

「感じない?」

何がだ?といった具合に春は顔をキョトンとした感じに紅蔭を見つめる。

「恐らく・・・南に八百Mってとこかしらね?」

「何がだよ?」

「あなた、本当に感じないの?」

窓を開けて感じるもの?風?風しかないだろ!

春は必死に頭を回転させる。

「魔力よ・・・。ここから南に八百Mの地点に魔力を感じる。こんな距離まで感じさせるってことは、恐らく交戦中・・・」

その時、春の頭に嫌なものがよぎった」

(南に八百M?おいおいここからその位置に値する場所って・・・)


――――この子たちは訳あって私が預かっている子たちで


――――ほ、包丁で切っちゃって・・・・


(喫茶『神無月』じゃねぇか!)


(なるほど納得だ。いきなり現れた双子。美咲の親指の怪我・・・全てこいつの言う事に当てはめると合点が行く。美咲が柄にもなく必死に隠し通すわけだ。)


いきなり黙り込む春に紅蔭はコンコンと玄関の扉を叩き、春に振り向かせる。

「どうする?気になるんなら行ってみる?そうすればあなたの胸の内は色々な意味でスッキリすると思うけど?」

「・・・」

春にはまだ迷いがあった。

恐らくこれは春にとって大きな分岐点だ。もし『神無月』に行って、美咲や双子がマジカルビックリバトルを繰り広げていたら、自分はそれを受け入れることができるのだろうか?そんな一抹の不安が春の心を徘徊していた。

「で?行くの?どうするの?」

なかなか答えない春に紅蔭はイライラしながらドンドンと扉をたたく。

さっきまで黙り込んでいた春は吹っ切れた様にゆっくりと口を開いた。

「行くだけ行ってみっか。」

「決まりね?」

莉亜&莉麻VS亜子




そして、その『神無月』では・・・。

「はぁ・・・」

莉亜が不意にため息をついた。

「うぅ〜私の遊び場なのに・・・」

どうやら遊び場のこの広い裏庭で戦われるのは莉亜にとって激しく喜ばしくないらしい。

「ちょっと狭いけど十分じゃない?」

亜子の発言に更に莉亜は顔を膨らませる。

ソーサーの美咲の力で魔力解放をされた双子は早く暴れたいのか、莉亜の方は無駄に地団駄を踏んでいる。

「武召(むしょう)具(ぐ)・ダイタン!」

莉亜と莉麻が大声で叫ぶと莉亜の右手と莉麻の左手にそれぞれ木槌が現れた。どうやらこれがこの双子の武器のようだ。

「では、私も武召具“ツイン・ボイン・スタッフ”!!」

双子の武器召喚の続き、亜子の方も両手に六〇pのメイスを召喚した。メイスの握り手のほうには布のようなものが巻かれている。・・・滑り止め?

「まずは・・・お手並み拝見・・・。」

亜子は不敵に笑うと・二つのメイスを前に交差した。

「アール・アーカイブ・・・“爆発する三人の兵士たち(ボン・ド・サーセリジャー)”」

そう呪文らしき言葉を亜子が言うと目の前に三つの野球ボールくらいの大きさの岩が亜子の前に並べられる。

「・・・“突撃(チャッシュ)”!!」

その岩が双子めがけてまっすぐ飛んでくる。

「岩使いか・・・。打ちかえしてやる!」

迫ってくる岩を莉亜は思いっきり持っている小槌で叩いた。

その瞬間三つの岩がカッと光り出し、小規模な爆発を起こした。恐らく威力は一つの岩に対しバズーカー砲一発分の威力だろう。

「ガハッ・・・ケホケホ・・・」

「うぅ・・・魔力障壁かかってなかったら即死でしたね。」

魔力解放中『ヴィザー』は自然と体の周りに魔力で作られた障壁が体を覆っているため個人差もあるが普通の人間の数倍は頑丈になる。それでもダメージは大きいようで双子の腕から中心に血が滴ってきた。

心なしか少し黒くなっているような気もする。

「はぁ・・・美咲大丈夫・・・」

『ソーサー』の美咲の体には障壁がかかっていないため普通の人間の耐久性なのだ。

さっきの爆発時の時、自分の後ろにいた美咲の身を案じて双子は彼女の方を振り返る。

「うん・・・二人のおかげで何とか・・・」

意外にも美咲は二人の思う他無事だった。どうやらいい具合に双子の莉亜と莉麻が盾となったらしい。

それに気付いているのかいないのかは分からないがとにかく双子は美咲の無事な姿に安心したようだ。

「どうやら、あの石に触れると爆発しちゃうみたいね」

補足を加えさせてもらうと、一つの石を爆発させると全ての石がその石と連動して爆発するようだ。どうやらこの三人は気付いてはいないようだが・・・。

「とにかく、打ち返しちゃダメよ?」

美咲は特に莉亜に莉亜に莉亜に・・・莉・亜・に念を押して注意を呼びかける。

「イエッサー」

美咲の不安を一切拭えそうにもない、莉亜が返事をすると再び木槌“ダイタン”を構えた。

あ・・・また美咲の不安を煽るような・・・そんな構えと顔を莉亜は見せる。

「うしっ!行くよ莉麻!」

「は、はい!莉亜ちゃん!!」

莉亜につられて・・・というかまぁ引っ張られて亜子に正面堂々突っ込んでいく。

「フンガ―!」

莉亜は訳のわからん奇声を挙げながら、亜子に突っ込んでいく。

早くもやけくそか? 

「キャンキャン・ドエイドル・・・“十割安打(トンワ・ボッカン)”!!」

双子は大きく“ダイタン”を振りかぶって亜子の頭上に勢いよく振り下ろした。

しかし双子には手ごたえが感じられない・・・何というかトマトを潰したような感覚がまるで感じられない。

まぁそれもそのはず・・・亜子は余りの迫力だ近づいてきた双子(特に莉亜)にビビって・・・いや、ただならぬものを感じて持っていたメイスで咄嗟(とっさ)に頭を防いだのだ。

まぁ、親に殴られそうになった子供がビビって思わず頭を両手で覆うようにガードするものとほぼ同じだと解釈してもらっていいだろう。

「ぐっ・・・なんて力なの?」

メイスでガードはしたものの、亜子の手にはただならぬ振動が伝わってきた。かなりの痺れが亜子の手に残り、メイスを持つのもままならない。

「成程・・・武器の強化呪文か・・・」

痺れていた手をぶんとぶんとふる亜子の横で瑛子が冷静に双子の属性能力を分析する。

「へっへ〜んだ!!どうだい!」

自慢そうにべろを出す莉亜に亜子は冷静を装いながら、大人気もなく言い返す。

「ふ、ふん!ただのバカ力じゃないの!そんなのわたしの究極技のまえではアリンコ当然よ!」

「口上はいいからさっさとかかってきなさいよ。ビビり女!」

「ビ、ビビり女!?」

ビビり女というフレーズに亜子はオーバーに反応し、目をつんのめらせる。

「きぃ〜言ったわね猿女!覚悟なさい!」

「やってみろ!」


もうここまできたらガキの喧嘩だ。

こうなれば互いのソーサーも呆れるしかない。

「あの・・・わ、私も猿女に入るんでしょうか?」

思わぬ巻き添えを食った莉麻がいつにもましてか細い声で喧嘩中の二人に訴えかける。だが、もちろん彼女たちには届いてないようだ。

どうやら、見た目以上に落ち込んでいるらしい。心なしか目線が若干下を向いている。

「ちょっと、あなたたち!!いい加減になさい!というより亜子いちいち乗らない!」

「莉亜ちゃんも冷静になって!」

そろそろ限界がきたか、互いのソーサーはようやく二人の言い合えお止めに入った。

「おっとそうだったわ!こんな猿女と低レベルな言い合いしてる場合じゃなかったわ!」

「確かに、こんなアホ女の言葉に耳貸してる場合じゃなかった!」

「な・・・あ、アホ女?」

莉亜の減らず口に亜子は更に額の血管を浮かび上がらせる。

「亜子!」

瑛子の一喝で亜子はハッと我を取り戻す。

「ふぅ・・・平常心平常心・・・。」

大きく深呼吸をし徐々に落ち着きを取り戻そうとする。

・・・もう手遅れのような気はするが・・・。

「そうよ、あの猿女がどんなバカ力でも近づかなければいいこと。・・・アール・アーカイブ・・・“爆発する七人の兵士たち(ボン・ド・セインセリジャー)”!!」

今度は七つに増えた爆発岩が亜子の前に並べられる。

「“整列(ストッド)”!」

そうすると岩たちが亜子を起点に縦一列にまっすぐ並び始めた。

「なんだ?あの爆弾岩・・・」

不気味なまでに団体行動をする爆弾岩に双子たちは目を丸くする。

「体育?」と美咲。

「運動会?」と莉麻。

いやいや軍隊といった方が適確だろう。

「・・・“変則急進(ラピード・イレグラス)”!」

すると縦一列に並んだいた岩たちが縦横無尽で不規則な動きをしながら双子の方に突っ込んでくる。

「うおっ!これは・・・打ち返し切れない・・・」

流石に怯む莉亜に呆れた顔で莉亜を見る美咲。 

「いや・・・だから莉亜ちゃん打ち返しちゃ・・・」

莉麻が果てしなく無意味なトロイ突っ込みを入れる。

当然、莉亜には彼女の言葉は聞こえる筈もなく大きくハンマーを振りかぶる。

「莉麻、手、手!!」

片手でハンマーを構えながら、莉麻にもう一つの方の手を差し出す。

そんな莉亜の合図を見た莉麻は慌ててその手をギュっと握る。

すると双子の中の魔力が二倍近くにまで増幅した。

恐らく二人が手を合わせることによって、二人分の魔力が一つに融合されるらしい。

どうやらこの双子の力の大きな特徴の一つのようだ。

「キャンキャン・ドエイドル・・・“大暴投(ワイルピッチ)”!!」

莉亜は振りかぶらせていたダイタンを勢いよく投げた。

恐らく時速一六〇キロ以上はあるだろうがかなりのコントロールの悪さのために莉亜本人は亜子に向ってまっすぐ投げたつもりだろうが、あらぬ方へと飛んで行き、変則行動おしながら向かってきていた爆弾岩の内の一つにあたった。

前述でも述べた通り一つ一つの爆弾岩は連動式なので、ダイタン直撃爆弾岩が破裂したと同時に他の爆弾も双子直撃寸でのところで一斉爆発を起こした。

「ふぅ・・・」

思わず安堵のため息を吐く美咲。全くもって当然の反応だろう。

この双子の戦いぶりは美咲にとってかなり心臓に悪いらしい。

「まさかハンマーが飛んでくるなんて驚いた。」



「さて、投げっぱなしのダイタン回収に行くから、莉麻援護よろしく。」

莉麻の手を離すと莉亜は単身ダイタンを取りに無謀にも亜子の方へ走り出した。

「もう、あの子単体の魔力じゃなんともなんないのに・・・。」

「危険冒してまで取りに行くんなら無暗に投げなきゃいいのに・・・。」

莉亜の突飛な行動を愚痴るのもほどほどに、莉麻はさっき莉亜に言われた通り亜子に目を向けた。

(援護って・・・私何をやればいいんだろう?)

莉亜のはっきりいって適当な頼まれごとに一人じゃかなり弱気になってしまう莉麻はすっかり困り果てたようだ。


そして、そんな莉亜もようやくダイタンの手前まできていた。

しかし、そんな状況をのんびり見ているほど亜子も馬鹿・・・お人好しじゃない。

「アール・アーカイブ・・・“爆発する三人の兵士たち(ボン・ド・サーセリジャー)・突撃(チャッシュ)”!」

彼女の放った三つの爆弾岩はまっすぐ、地面に転がるダイタンに向かっていった。

(まずい、流石に二回も爆発に耐えられるような障壁はあれにかけてないよ〜!)

流石の莉亜も顔を青くする。

「キャンベル式防衛術“球護体・・・カプセルベンチ”!!」

美咲だった。

彼女の唱えた詠唱は莉亜のダイタンを半透明な球体で包み込み、亜子の爆弾岩から攻撃を守ってくれた。

亜子は思わず舌打ちをする。

この、人間であるにも関わらず美咲が術を使えた理由は双子によると、『ソーサー』として契約を結んだ恩恵の一つで本来は己の身を守るための防御呪文らしく、『ヴィザー』の成長につれて、あと二つの恩恵が受けられるらしい。

そしてこの半透明な球状の盾が美咲にもたらされた「守り」の恩恵のようだ。

「セ、セーフ・・・」

莉亜はそんなに焦ったのか汗だくでようやくダイタンを回収した

「サンキュ美咲」

「お粗末さまでした」

美咲・・・それ違う。

何にせよ急いで双子は合流し、再び手を取り合った。

「よし・・・反撃開始!!」

そう言うと双子はダッシュで亜子に近づいていく。

「アール・アーカイブ・・・“爆竜戦士(ボン・ランゴ・ファンター)”!通称“ボムラ”!!」

「ボ、ボムラ!?」 双子の前に爆弾岩で作られた巨大な蛇・・・のような怪物がうねうねと地中から這い出てきた。勢いよく突っ込んでいた双子も思わず、怯み足を止めてしまう。体中からムッとした熱気が双子の肌に伝わってくる。

息苦しいぐらいだ。

その蒸し暑さに耐えきれなくなったのか双子は二歩三歩後ずさりする。 

「にしても・・・でか・・・長いな」

莉亜は体長推定五、六メートルを前にした感想を述べながらこの大蛇の処理をどうするか頭を働かせていた。

「当然、このボムラも触れたら爆発するわよ?」

亜子が意味もなく鼻を高めにして言ってみた。

「どうする莉亜ちゃん?あれ使い魔って感じじゃ無さそうだけど?」

「使い魔じゃなかったら無視して亜子(本体)を叩けば消えるでしょ?」

「じゃあ・・・一発本体狙い?」

「おう!!」



〜爆竜〜
そんな中、春を迎えに『神無月』へとやって来たこより。

裏庭でドンチャンバトルを美咲達が繰り広げているとも知らずに、そーっと店内に入る。しかし、人気がない。明かりはついてるし、入口の所にいつもぶら下がっている「CLOSED」の文字の書かれた札もなかったので、恐らく早じまいというわけではないと思いどんどん中に入り、美咲の名前を呼んでみる。・・・

・・・しかし、返事は無い。とても静かだ・・・というわけでもなく、こよりの耳に奥からのドンドンという音が入って来た。

もちろん、裏庭で美咲達がドンパチやっている音なのだが、何も知らないこよりには特撮のクライマックスの撮影でもやっているのかと思ったのか何なのか知らんが、好奇心に駆り立てられたように奥へと歩みを進める。


その時だった。こよりの目の前がカッと光り轟音とともに激しい熱気を纏った風にこよりは吹き飛ばされた。

体を強く打ちつけたらしく爆炎が広がる中こよりは気を失った。 店の中でそんな事が起きているとは露として知らない美咲達は爆発で吹き飛び、半壊した『神無月』を見て呆然としていた。

一瞬のことだった。

亜子の“爆竜戦士”の尻尾に当たる部分が偶然にも『神無月』に直撃してしまった。

亜子には悪気はなかったのだろう。彼女の表情を見れば分かる。顔を青ざめ硬直してしまっている。おそらく想像以上のことをやらかしちゃった感じなのだろう・・・まるで、野球のボールで窓ガラスを割っちゃった少年のような顔をしている。

「あ・・・」

美咲は言葉にもならないらしい。よろよろと崩れている部分の方へゆらりゆらりと近づく。

「お、お前〜!何やってくれてんだ!」

莉亜の方は他の二人とは対照的に脱力感はなく、代わりに亜子に尋常じゃない怒りがこみ上げて来たようようで、物凄い形相で睨みつけた。

「い、いや・・・これは・・・その」

亜子・・・キョどってます。

つい、謝りそうになったが、流石にそこはグッとこらえた。

「ま、まぁ・・・ちょっとしたアクシデントもあったけど、仕切り直しといきましょうか!」

「うわ・・・!開き直った!!」

もう、莉亜は怒りを通り越して呆れた。

「“爆竜戦士(ボン・ランゴ・ファンター)”・・・行きなさい!」

再び突っ込んでくる、ボムラ。

「もう、これ以上滅茶苦茶にさせないぞ!!」

ダイタンを構えると、ボムラの頭部まで飛びそのまま、ハンマーを振り下ろした。

当然、ボムラの頭は爆発を起こした。吹き飛び、瓦礫の山に叩きつけられた。

「いたた・・・」

「莉亜ちゃん・・・無茶しすぎだよぉ。」

かなりの痛手を受けた莉亜と明らか巻き添えの莉麻。

土埃に包まれながら、よろりと立ち上がり、崩れ倒れたボムラを眺める双子。

完全に動くなくなったボムラを見届け、ほっと胸を撫で下ろす。

「やっぱり、頭潰したら動かなくなったね。」

「う、うん・・・結果オーライ?」

「うん、結果オーライ!!」

二人で勝手に盛り上がり、莉亜は莉麻に強引に両手ハイタッチまでさせる。これを見るにかなり調子づいてるようだ。

まだ親玉を倒していないんだが・・・。

当然、亜子は二人の反応は面白くはない。

「全く・・・。舐められてるわね?」

「えぇ」

怪訝な表情を浮かべる亜子に対し若干鼻で笑いながら、返事をする。



〜戦血の契約〜




「な、なんじゃこりゃー!」 突如のジーパンっぽい叫び声が双子たちの後方から聞こえてきた。

「春君・・・?」

崩れた『神無月』でちょこんとしゃがみ込んでいた美咲は玄関付近で、野次馬の中で大口を開けていた友人・桜崎春を見つけた。

「おいおい・・・一時間も経ってねぇぞ?なのに・・・」

それ以上の言葉は出てこなかった。

春は急いで、崩れた『神無月』に潜入していく。後ろに付いていた紅蔭もそれに続く。

「美咲!」

春の目に真っ先に見えたのは、瓦礫の中に呆然と佇む美咲の姿だった。

「春君・・・どうして、ここに?」

「いや・・・ちょっとな。」

「ねぇ・・・」

土煙り舞う中、紅蔭はカウンター席のあったと思われる部分を徐に指さした。

その指の先の瓦礫に目をやると、ダランとした手が瓦礫の間からはみ出ていた。

「こ・・・こより?」

春にはその手が誰かすぐに分かった。

「へ?こよりちゃん?」

美咲がキョトンとする中で春は急いで周りの瓦礫をどかす。

瓦礫の中から出てきたのは折れ、倒れたカウンターの机・・・そして、その下には頭から血を流したこよりの姿があった。

「こより、大丈夫か?」

カウンター机をどかし、春はこよりを抱き起す。

「くっ、なんでこんなところに・・・。」

「見なさい。」

春は、紅蔭に促されるままに後ろで繰り広げられていた壮絶な光景を目の当たりにした。

蛇の様な大きく連なる岩。

煙の中、傷を負いながら木槌を振り回す双子。

宙に舞い、爆発する小岩にそれを操るツインの少女。


その全てが春のいやな不安を現実に変える・・・そんな光景だった。 自然と足が震える。肉眼で見ている以上CGでもなければましてやドッキリとも思えない。逆に思いたくはない。

というか、見ず知らずの奴にドッキリを仕掛けられるほどダメな人生送ってるつもりもない。

混乱状態に陥る春に横から紅蔭が煽るように静かに言った。

「で?どうすんの?さっさと決めないとこの子もろとも・・・本当にこの場所に帰ることができなくなるわよ?」

・・・それは恐らくは死を意味している。春にはそれがじんわりと伝わって来た。

春に選択肢は二つしか残されていなかった。


一つは、この少女の言う事を信じ、血の契約とやらを結び、彼女の夢の手伝いを期間限定で行うか・・・。

それとも、このまま少女の申し出を拒み、あの世に行くか・・・。

「春・・・君?」

キョトンとする美咲。


春もこの際知らんぷりなんて出来るほど肝の小さい人間ではない。

春はさっき受け取った銀の短刀を手に握った。


そして・・・


「・・・痛ッ!!」

なかなかによく切れるらしく、春は思った以上に人差し指の節目を切った。

そして、血の滴る指をそっと紅蔭に差し出す。

そして、それに応える様に何も言わずに紅蔭はその指をすっと舐めとる。

柄にもなく、ビクッと背筋をよだたせる春。

年下といえど異性に人差し指を優しく舐められるのは、あまり平然とできる状況ではないのだろう。


そんなことを思っていると、急に、紅蔭の体が赤い光に包まれた。

そして、感じる・・・

彼女の中にはさっきまでなかったモノが溢れてきているもの。

あったかくて・・・

それでいて圧倒させるような・・・オーラのようなもの。


そして、改めて思い、確認する。


「契約完了ってわけか・・・」


「春君・・・?」

ただ、茫然とその光景を見ていた美咲はようやく状況を理解する。

彼が、自分と同じ立場にたった今置かれたということ。

そして、この長髪少女にみなぎる力強い魔力を・・・


「速攻で終わらせてあげる。」

「おい!」

颯爽と向かおうとする紅蔭を春が呼び止めた。

足を止め、顔半分振り返る紅蔭。


「・・・あとでキチンと説明付けてもらうからな・・・。」

「えぇ・・・あなたの頭で分かる範囲でね?」


少し悪戯っぽい笑みを見せる紅蔭。

それは、ようやく春が目にした彼女の笑顔だった。

そして、再び歩みを進める。



〜紅蔭VS亜子〜
「はぁはぁ・・・なんかイマイチ調子でないな・・・。」

「美咲ちゃん、お店あんなになっちゃって少し放心状態だし・・・。」


店崩壊後・・・双子の急激に魔力のキレが落ちて来た。

息も上がってきている。

正直言って劣勢だ。

そんな双子の前に、ゆっくりと紅蔭が背を向けて立ちはだかった。

「・・・?」

双子は、突然出てきた紅蔭に呆気取られた。

「あんた・・・なんだ?」

彼女に敵意がないのは、双子にも何となくわかった。

だが、状況はさっぱりと分からない。

しかし、紅蔭の方はすべての状況を把握しているかのように堂々とそこに立っている。

「助けたげる・・・。今は味方が多い方がいいし・・・。」

紅蔭がそう言うと、双子は無意識に2,3歩後ろに下がった。

「あ、あんたは〜!!」

いきなり、向こう側にいる亜子が声を上げた。

それに身をすくめる双子。

亜子の方はというと、最初驚いた表情を見せていたが、少しして急に不気味な笑みを浮かべた。

「奇遇ね?紅蔭=クーファネット?」 いきなり、メイスで名指しされた紅蔭。

しかし本人は特に変わった反応を見せることもなく、亜子を一点に見つめている。

「私のこと覚えてる・・・?」


「・・・いいえ。」

ようやく紅蔭が彼女の話に否定の方の反応を見せる。

その答えに亜子は非常に不満だったらしく、少し遠めの肉眼でも確認できるほどの血管を額に浮かべていた。

「いい度胸ね?丁度いいわ・・・。ここで血祭りに上げて倒してあげる。」


「あいつら・・・知り合いじゃねえのか?」

様子を見ていた春や美咲も首を傾げる。

まぁ知っていても状況を改善させる反応はなさそうだが・・・。

「そうね・・・私も少し嬉しいわ?『ヴィザー』討伐大1号に輝いて・・・」

「言うわね?こっちこそ。もう負けないよ?」

そう言うと亜子は倒れていたボムラを再び起こした。


「そんな・・・倒したと思ったのに・・・」

起きあがる巨大爆発竜に顔を青くする双子。

「やっぱ完全に砕くしか・・・?」

「私の武召具・・・“レイガント”!」

一同が軽い絶望感に浸っていると、紅蔭が腕から、自分の身長あるかないかくらいの大剣が現れた。

「相変わらず偉そうな装飾ね!!」

特にほめられている気もしない。


「あなたがどこの誰か知らないけど・・・残念!間が悪かったわね?」

そういうと、紅蔭がギュッと大剣・レイガントを構える。

「ほ、本気で忘れてるんじゃないのよ・・・!“爆竜戦士(ボン・ランゴ・ファンター)”!!」

亜子は紅蔭の態度に完全にキレたらしく、ボムラを紅蔭めがけて向かわせた。

「クーズ・クーファーズ・・・“八岐大血(エーリュー・ヒ―ブラン)”!!」


紅蔭のレイガントの刃からほどばしる赤い光・・・。


紅蔭のレイガントの刃からあふれ出す赤い液体・・。


それらは姿を変えていき、血で出来た竜が現れ、それを放つ。

竜の頭は一瞬で八つに枝分かれし、古の怪物・・・八岐の大蛇の様な姿で亜子のボムラに食らいついた。

「負けんじゃないわよ?ボムラ!!」

亜子の願い届かず・・・赤い怪物は、亜子のボムラを喰らいつぶした。

「くっ・・・!!そんなここまで差があるなんて!?」

赤い怪物は、ボムラを食い破ると、そのまま亜子めがけて、突進してきた。

「くっ・・・こんなとこで負けるわけには・・・!!」

紅蔭の力は、あっという間に亜子の体を飲み込むように食らいついた。

亜子の悲鳴と鼻をつく血の匂いとともに喫茶『神無月』の戦いは終わりを迎えた。



〜和合〜




『神無月』の庭には大量の血の海が広がっていた。

紅蔭の力の跡・・・だ。


「あれ?いない・・・。」

双子が辺りを見渡すと亜子の姿はそこにはなかった。

「やられたら、『ヘルへヴン』ってとこに帰るんじゃないのか?」

春が、瓦礫を片付けながら言う。

「いいえ、『ヴィザー』を倒すと、その証として、『魔核』っていうこれくらいの玉が出てくるのよ?」

紅蔭が指で大玉の飴玉くらいの形を作りながら説明を加える。

つまり、結果としては亜子はやられる直前に逃亡したんだろう。

それを認識すると、莉亜は双子に悔しそうに地団駄を踏む。

「紅蔭・・・だったな?」

崩れた瓦礫の上に座る紅蔭の元に春が歩み寄る。

紅蔭は目を合わせない。

「・・・なに?お礼なら結構よ?」

素気なくいう紅蔭に春も素気なく言い返す。

「バーロ・・・てめぇに礼を言う筋合いはねぇよ!!」

「そうね・・・だって・・・」

巻き込んだのは自分だから・・・

紅蔭はそう続けようとした。

しかし、春が紅蔭に言葉を被せるように言った。

「よろしくな。」

紅蔭が驚いたのだろうか・・・目を少し見開かせる。

しかし、すぐに元の表情に戻し、そして口元に小さく笑みを浮かべる。


「こちらこそ」

握手とかはしないものの、二人がお互いを受け入れた瞬間だった。

こうして、桜崎春の運命軸を狂わせた一日は静かに終わろうと、少しずつ日を落としていく。




あとがき


どもぽちゃです。

乙です。

なにがかって別に取り立てて挙げるようなことはなにもないですが・・・

今回の話の補足をさせてもらいますと・・・

今回でてきたワードで説明されてなくね?とか説明の節々が抜けてるとかは全部スルーで・・・。

ちょっとずつ話していきますので・・・。

あと紅蔭の説明で分からなかったらこれもまたごめんなさいorz

説明下手なの改善できるかと思ったんだが・・・

まぁ補完の補完もまた追々・・・。

動機がショボイとかは思わないように・・・!!

まぁ大体のこの話の流れさえ理解してくれたら十分です!!

今回出てきた亜子は地味ですが結構好きだったりします(笑)

どうでもいいですか?

じゃ、また!!


備考


亜子=アーカイブ→アーカイブはアーカイブスから。

レイガント→武蔵伝の武蔵の武器

莉亜&莉麻の技→球技関係

ヘルへヴン→漫画「MAR」の世界メルへヴンより

『ラ・トストテス』設定→金色のガッシュ・舞乙ーHiMEの融合的な感じ