小説

戦血のクイーン



第3話 「それがわたしにできること」



〜お願いします〜




「へ?紅蔭ちゃん、ここに居候するんだ?」

「あ、あぁ・・・。こいつ身寄りとか無いみたいだしさ・・・頼むよ?」

桜崎春が両の手を合わせて妹のこよりに頼み込む。

当の紅蔭はただただ黙って、事の成り行きを見守っているようだ。

その態度はまるで他人事のようだ・・・。

「うーん・・・」

こよりはしばらく考えると紅蔭に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

ここで初めて紅蔭がこよりに目線を合わせる。

「紅蔭ちゃんはいいの?」

「別に贅沢は言わないわ・・・。お願いしてるのはこっちだし・・・。」

「お願い?」

無愛想に答える紅蔭にこよりは、こよりは少し言葉の重さを変えて一言、返してきた。

その口調は明らか機嫌のよいというものではないだろう。

「さっきからお願いしてるの・・・兄さんだよ?紅蔭ちゃんの口から『お願いします』の言葉を聞いてないなぁ?」

こよりは口調が若干キツめなものの表情は変わらず笑みを浮かべながら、紅蔭に問いかける。

「・・・」

「人見知りとか、一匹狼なのかは知らないけど・・・こういうことはちゃんと言わないと・・・ね?」

こよりの言葉に紅蔭は少し下を向き、そして、再びこよりの方に顔を向けると、深すぎず浅すぎずといった感じでぺこりと頭を下げた。

「お願いします。しばらくこの家に住まわせて下さい・・・。」

「・・・はい!いいですよ!!」

頭を下げる紅蔭の頭にポンと手を置くと、優しい声で、紅蔭の願いを受け入れた。

「・・・ありがと。」

紅蔭はこよりから少し目を外すと、ボソリと礼を言った。

「どいたしまして!」


こうして、紅蔭は無事、最初の難関であると言えよう『ソーサー』の家に居候するという試練を乗り越え、桜崎家の一員になるのだだった。

四月二日午前九時のことだった。



〜チョコと少女〜


少し時間を遡り四月一日午後一九時三〇分。

春風美鈴は驚いた。

いや・・・驚いたで済まされないような事態に巻き込まれていた。

「何・・・これ?」

喫茶『神無月』からチョロチョロと寄り道した後に家に戻ってみると、そこにはこの家を出る前とは明らかに違う光景が広がっていた。

「扉が・・・ない。」

美鈴の目に映ったもの・・・それは、玄関の扉がものの見事に外れ・・・いや押し破られていたのだ。

(最近の犯罪は大胆かつ狡猾になってきたとかいうけど・・・これはちょっとやりすぎじゃ・・・。)

美鈴はしばらく躊躇した後、ゆっくりと足を自分の家の敷居に入れる。

自分の家なのに、ちょっとした魔王の城探検気分だ

美鈴は手に持っていた傘を強く握りしめおそるおそる、部屋のなかへと入っていく。

奥からは何やら小さな物音が聞こえてくる。

そんな音がするたびに美鈴は背をすくめてしまう。

音のする方へ一歩、そして一歩と進んでいく。

美鈴の足は音の導く先の台所の方へと進んでいく。

そして、そこにいたのは・・・

ピンクのニット帽子を被り大きくまんまるな目をパチリとさせた可愛らしい少女だった。

少女は、無心に台所の冷蔵庫を漁りながら、チョコレートをボリボリとむさぼるようにして食べていた。

そして、少女は少しして、後ろに立つ美鈴の存在に気づいたようにふと後ろを振り向く。

「・・・えーっと・・・君、誰?」

「私?私の名前は桜耶(さくや)・・・桜耶=サーレムだよ・・・。」

「そ・・・そう。桜耶ちゃんね?私は美鈴・・・春風美鈴よ?」

相手の名乗りに釣られたのか何故か自分の方も引け腰になりこの得体の知れない少女に自身の名を名乗ってしまう。

「美鈴ね・・・。美鈴はこの家の人?」

「うん・・・さ、桜耶はここで何やってんの?人の家だよ?」

いきなり馴れ馴れしく自分の名前を呼び捨てにする桜耶に対抗してかどうかは分からないが、美鈴もつい、少女の事を呼び捨てで呼んでしまう。

こうなってしまっては、美鈴の心情としてはぶっきらぼうに追い出すわけにも行かなくなった。

こんないたいけな少女がなんの理由もなしにこんな空き巣まがいのことをするはずもないし・・・

何より、堂々としている。

家の住人の美鈴が帰ってきているというのに、物怖じせず、逃げることもなく・・・増してやその本人を前にして未だに冷蔵庫を漁っている。

何より、いきなりの呼び捨てに妙なフレンドシップのような・・・美鈴にとっては妙に好感のもてるそんな桜耶の態度が美鈴の心を軽く揺さぶったからだ。

「いやー・・・お腹すいちゃってさぁ?」

「玄関の扉壊したのはあなた?」

「うん・・・開かなかったから・・・後で直しとくよ?」

「・・・・・」

「・・・・・」

言葉詰まる美鈴。

あまりにこの空き巣犯が淡々と答えるから・・・。


そんなときだった。

“ブ―――――ン”!!

桜耶の方から激しいバイブ音が鳴り響いた。

驚く美鈴をよそに、桜耶が落ち着いた様子でポケットから、そのバイブ音を出すモノを取り出す。

それは、方位磁石のような薄い円盤状ようなものだった。

「ふむ・・・。」

桜耶はその方位磁石のようなものと美鈴の顔を交互に見る。

これを数回繰り返しすと桜耶は、ゆっくりと、美鈴の方へと歩みより、腰をポンポンと叩いた。

そして、叫ぶ。

「おめでとう!!」

「は?」



〜魔核〜




同刻・・・。

喫茶『神無月』・・・。

亜子との戦いを終えた双子たちはいそいそと破壊された喫茶『神無月』の修繕に励んでいた。

「そう・・・春くんの所にも来たんだ・・・『ヴィザー』・・・。」

双子が一生懸命修復活動している横で、春と美咲が各々の事情を確認し合っていた。

「あぁ・・・お前のところにはいつ来たんだ?」

「うん・・・一週間前・・・かな?紅蔭ちゃんは今日来たのね?」

まぁ来たというより突然出てきたといった方が春にはしっくりと来た。

それほどまでに紅蔭の出現は春にとって得体の知れない化け物が現れた・・・そんな感覚だった。

「いきなりで驚いたでしょ?」

美咲が敢えて笑って言ってみせる。

「はは・・・まぁな。本当に巻き込まれたって感じだよ・・・。」

春は少し離れたところで座っている紅蔭を見ながらため息半分に答えてみる。

「そういや・・・紅蔭やあの双子が持ってたあの武器は・・・どこから出したんだ?」

実際、紅蔭に何も聞かされていない春はいきなり紅蔭の手に握られた武器の存在は彼にとって不思議でならなかった。

「あれは“武召(むしょう)具(ぐ)”って言って・・・普段は“ヴィザー”の体内に眠っているんだけど“ヴィザー”の意思に反応して具象化出来たりするの・・・。これは“ソーサー”が魔力の解放なしでも具象化は出来るのよ?」

「やっぱり普通の武器とかと違うんだな?」

「まぁ魔力の塊みたいなものだし・・・」

「塊?」

首を傾げる春に美咲は正直に驚いた。

「紅蔭ちゃんにホントに何も聞いてないの?」

「・・・まぁ・・・。」

正確には春が紅蔭の話をまともに聞いてなかったからだが・・・そうはいえないので春は少しお茶を濁す。

「えっと・・・“武召具”っていうのは魔力で構成された武器で・・・例えば莉亜ちゃん達の“武召具”の“タイタン”の中にはえーとテニスボールくらいの大きさ(莉亜談)の魔力の核・・・“マギル”っていうのが埋め込まれてて・・・これのお陰で武器から強力な力が使えるようになるの・・・。これは“ヴィザー”の体内にも埋め込まれてて、これは“ヴィザー”自身の魔力の塊なの。」

「・・・」

何となく紅蔭に聞いたような話だったが、春にはどうにもピンとこない・・・。

そんな春にお構いなしに美咲は話を続ける。

「この“マギル”が破壊されるということは魔力を失うということに繋がるからあっちの世界に戦闘続行不能とみなされて脱落という形で向こうの世界に強制送還されるのよ?」

「・・・ん?武器の中のマギルは、武器を破壊したら同時に破壊されるんだろ?」

「うん・・・そうだけど?」

また春が首を傾げる。

「じゃあ、“ヴィザー”の“マギル”はどうやって破壊するんだ?」

「えぇっと・・・“ヴィザー”っていうか彼女たちの身体は現在、この場所・・・『ウィス』・・・地球では魔力で構築された身体に魂だけ入っている状態だから・・・この体そのものを完全に破壊したら多分“ヴィザー”の“マギル”も潰れると思うんだけど・・・。」

「ようは概念的には死んだら負けって感じか・・・」

「うん・・・」

二人は複雑な表情を浮かべる。

そんな現実に美咲は改めて認識させられ黙りこくってしまったのだ。



一方の美鈴家では・・・

「・・・『ラ・トストテス』・・・ね。」

桜耶から大体の概要を聞いた美鈴は未だに混乱の渦に飲まれていた。

しかし、彼女はまるでこの戦いのことを至極当然のことのように喋るために嘘とはどうしても思えなかった。

かといって全てを鵜呑みにしたわけではないが・・・。

「じゃあ、はい!」

そういうと美鈴は自分の右手親指を差しだした。

どうやら覚悟を決めたようだ。

「いいの?」

桜耶は案外すんなり受け入れた美鈴を見上げる。

「論より証拠・・・あなたの言う契約ってやつやってみせてよ?」

強がる美鈴だが内心は不安でいっぱいだ。

普段はこんな肝の据わったようなことができる少女ではない。

だが、彼女の話には美鈴の中のナニかを引きつけた。

それは美鈴自身は自覚もしていないだろう・・・。



「じゃ、行くよ?」

桜耶も美鈴の覚悟を受け入れたのかポケットから銀の短刀を取り出す。

そして、美鈴の親指の節を・・・切った。

「痛っ!!」

美鈴の親指から流れ出る血を桜耶は舌で舐めとる。

舐められてるのは自分より小さい女の子なのにどことなく照れくさくなり、顔が赤くなってしまう。

「・・・これで大丈夫・・・。」

契約の儀式が終わり、桜耶は再び差しだされたチョコレートドリンクを飲む。

一方の美鈴はしばらく自分の親指を見つめていた。

まるで実感が沸かない。

桜耶の話では自分の中にも魔力が流れこんだはずなのに・・・なんというか魔法使いになった気分ではなかった。

その様子を桜耶が横目で見る。

「まぁその内分かるよ?だからほら、お菓子どうぞ?」

そう言いながら桜耶は美鈴にポッキーなどのチョコレート菓子を差しだした。

「それ・・・私のお菓子だけどね?」

なんか納得しない気持ちを抱えながらも・・・「いずれ分かる」という桜耶を信じて、桜耶をとりあえず受け入れることにはした。

でないと、壊された扉の修理代の割りには合わない・・・そう美鈴が勝手に解釈したからというのもあるだろうが・・・。



〜紅蔭と桜耶〜




翌日・・・桜崎家

「紅蔭ちゃん!」

爆睡中の春をおいて先に朝食を食べ終わったこよりと紅蔭。

こよりは、昨日から我が家にやって来た紅蔭をまるで新しい妹が出来た様に喜びのオーラを朝からムンムンに出していた。

こよりの言葉に紅蔭は表情変わらずして返事をする。

「なに?」

「今日さぁ・・・一緒に買い物に行かない?」

「・・・買いもの?」

紅蔭がなぜまた急にといった感じで頭を下げる。

「だって紅蔭ちゃんに合う服とかないし、紅蔭ちゃんも身近な日用雑貨とか色々揃えたいでしょ?」

確かに・・・ここに来た『ヴィザー』達は生活に使う持ち物をあまり持ち合わせてきていない。

そういった意味でも『ソーサー』に頼り切るしかないのだが・・・流石の紅蔭もそれは割に合わないと察したのか、素直にこよりの意見を承諾する。

「じゃ、決まりね?兄さん待ってても仕方ないからさっさと準備していきましょ?」

「そ、そうね・・・。」

昨日の爆発に巻き込まれた人間とは思えないほどの元気のよさ・・・。

こよりはあの時運よく爆風に当てられただけで済み大して怪我もなく爆発のことも春や美咲が苦くも誤魔化しに成功した。

それでも精神的後遺症も残っていないのは紅蔭も驚いていた。



同時刻・・・美鈴家

「でぱーと?」

桜耶が美鈴の急な提案に首を傾げた。

「そ!桜耶の服とか買いに行こう?」

美鈴達は昨日のうちに早くも互いに打ち解けたようだ。

根本的なところで互いに似通ったところがあるんだろう。

「いいよ?別に私は・・・美鈴のお下がりで・・・」

「私、小さい頃の服とか全部捨てちゃったわよ?」

「うー・・・仕方ないなぁ」

桜耶はそう言いながら渋々と出かける準備をするため洗面所へと向かった。



東鳩町2丁目・・・東鳩(ひがしはと)デパート。

午前十時二十五分。

先にやって来たのは紅蔭とこよりだった。

「やっと着いたね?とりあえず紅蔭ちゃんの服見て・・・紅蔭ちゃん何か欲しいのとかある?」

「別にいいわよ?私の為の買い物なんだし・・・。」

「そ、そう?」

妙に大人びた彼女にたまにこよりは呆気にとられてしまう。

こよりとしてはもっと子供らしく甘えてくれたらいい・・・というのが考えだ。

むしろ甘えて欲しい・・・これが本心だ

なのに紅蔭といえば昨日桜崎家に来てから必要以外の事の言葉は滅多に発しないし、何故か妙にこよりには気を遣ってくる。

それがこよりにとっては気がかかることで、妙にモヤモヤしたものがあった。

可愛くない子供・・・と一言で片づけてしまえばそれまでだがそれではこより自身が納得しない。

今回のこのショッピングはある意味こよりにとって紅蔭との親睦会をも兼ねているのだ。



そして・・・紅蔭とこよりがやってきて遅れること二十分後・・・

桜耶と美鈴がデパートにやってきた。

「さて・・・どこから廻るか?」

あまりデパートで買い物をしない美鈴はこういった買い物の手順はよく分かっていない。

下手したら最初に食料品売り場で買い物をしちゃうくらいだ。

そこで今回美鈴が決めたプランは・・・。

「よく分かんないから上から順番に回っていこうか?」

どうやら安牌な結果に収まったようだ。

美鈴がいざ入ろうとすると桜耶が入口の立て看板に張り付いていた。

「桜耶・・・なにやってんの?」

桜耶は目をキラキラさせながら、更には涎をたらしながらその立て看板に張り付いている。

美鈴にとっては桜耶で立て看板の内容が見えないし、恥ずかしいし、店の中に入れないしでもう三拍子にといった感じでイライラが募るといったところだろう。

「美鈴〜?」

そんな美鈴をよそに桜耶はなんとも幸せそうな声をだした。

「なによ?さっさと離れなさい?」

「これ食べようよ?」

ようやく桜耶が美鈴に見せるようにその看板に書かれているでっかい文字を指さす。

「・・・“期間限定メガチョコレートパフェデラックス”・・・?」

美鈴は納得をしたものの、毎度外に出るたびにこういう看板に張り付かれたら桜耶としても決してプラスの結果は生まないだろう。というかそのうち補導もんだぞ?

そんな桜耶には「後で」と一言いった後、強引に桜耶を引っ張ってデパートに入っていた。



「うーん・・・紅蔭ちゃん・・・大人びてるからなぁもっと暗いめの服の方が・・・」

三階の服売り場ではこよりが紅蔭の服選びにかなりの時間を割いていた。

服の方にあまり関心がない紅蔭にとっては三〇分も一着の服で悩む理由が分からなかった。

「ねぇ?まだ決まらない?私、何でもいいわよ?」

紅蔭が待ちくたびれたのかため息混じりの声でこよりが悩むいくつかの服をいくつか手にとってみてみる。

「あ、そうだ!紅蔭ちゃんの服だし紅蔭ちゃんに選んでもらったらいいか!!」

そういうと、こよりは紅蔭に数着の服を持たせて試着室へと半ば無理やり押し込んだ。

「ちょっと・・・!!」

「全部着てみて!!」

紅蔭に抵抗の間を与えることなくこよりは笑顔でカーテンを閉めた。


「二・・・トンマが確認したのはその数字よ・・・」

「二・・・このデパートにそんなにいるとは驚きだな!!」

デパートの地下食料品売り場でカラスの羽飾りで覆われたゴズロリっぽい服に身を纏った少女と長身で冷たい目をした男二人が特に食料品を物色する様子もなく・・・ただエスカレーター脇のベンチに腰をかけながら、やって来た鴉(からす)となにやら会話のような行為をしていた。

デパートの客や店員達はその鴉の存在に気付くこともなく、普通に買い物をしていたり営業をしていたり・・・。

二人は鴉を放すとゆっくりと立ち上がった。

「まずは・・・?」

男が少女の目を見ることなく静かに質問をする。

「そうね・・・3階婦人子供服売り場と屋上か・・・やりやすいのは屋上かしらね?」

「じゃ、そこで・・・。」

そういうと二人は歩調を速めた。



午前十一時二十七分・・・東鳩デパート屋上・・・。

そこでは桜耶と美鈴が早めの昼食を取っていた。

「紅蔭=クーファネット?」

ハヤシライスをかきこみながら桜耶は、その名前を口にした。

「うん・・・実は私、その紅蔭って子探してんの!」

「どして?」

慌ただしく食べる桜耶にナプキンを渡しながら美鈴はその紅蔭と桜耶との関係を訊ねた。

「ん〜・・・やっぱり私には紅蔭しかいないから!」

全然答にはなってはいなかったが何故か美鈴には何とはなしに伝わったらしい。

美鈴は「ふーん」とだけ答えると自身のスパゲッティを口に運んだ。

「私さ、小さい頃から家が貧乏で友達もいなくて辛いこともいっぱいあったんだ・・・けどその時、出会ったのが紅蔭だったんだよ!」

桜耶の説明ではその時というのがアバウトすぎて分からなかったが、桜耶は自身の通っている学校『ノーワール第七学校』で同じクラスだった紅蔭と初めて交流をかわした。

桜耶曰く紅蔭は自分の命の恩人であり、人生の先生でもあった。

「ふ〜ん・・・じゃあ桜耶は別に無理に『RoA』に入りたい訳じゃないんだ?」

「うん・・・だから紅蔭の力になろうと鋭意奮闘中何だよ?だから、申し訳ないんだけどさぁ私にも協力してほしいし紅蔭にも協力をしてほしいんだ・・・。」

今までにない桜耶の強い願いに美鈴は一つ間を置き・・・答えた。

「・・・・うん。わかったよ?」


美鈴にとってその桜耶の言葉が痛かった・・・。

自分の一回り小さい子供が今、自分が十年間ずっと出来なかったことをしようとしている。

大事な人のためにこうも堂々と尽くせるものなのか・・・?

確かに話しを聞く限り、桜耶が紅蔭に受けた恩はそれは多大なものだろう。

それは自分の一生分の人生を投げ打ってでも返す価値はあるかもしれない・・・。


しかし、それは美鈴も同じことだった・・・。

一生分の時間を・・・命を投げ打ってでも尽くしたい人間が彼女にも存在した。

しかし、彼女はそれをしなかった。

出来なかった・・・。

そんな美鈴の自責の念が今をも時折彼女を押しつぶしそうになった。

そして、今桜耶の言葉で再び鮮明なままに美鈴にそれを再認識させた。

だからといってこれからの彼女にはもうどうしようもできない・・・。

彼女にとってそれはもう取り返しのつかない所にまでいってしまったのだから・・・。



〜鴉と少女〜




一方の3階婦人服売り場・・・。

「・・・鴉の羽?」

エスカレーター手前で紅蔭はあるはずのない鴉の羽根を拾った。

見渡す限り、このフロアには鴉の羽根を使った服は見当たらない。

そもそもこんなデパートで鴉の羽根を扱った服があるとは紅蔭には思えなかった。

かといって野生の鴉がここに入って来たとは考えにくい。

「おーい紅蔭ちゃん!そんなとこで何やってんの?」

買い物を終えたこよりが向こうのほうで大声で紅蔭の名を叫んだ。

紅蔭は多少気にはしたものの、その鴉の羽根をゴミ箱に捨てるとこよりのもとへと歩いていった。



「何か用?」

東鳩デパート屋上・・・

桜耶と美鈴の前に鴉の羽根の服を纏った少女が現れた。

「私の名は六花(りっか)=シンドローム・・・。」

「橋宏樹(たかはし ひろき)・・・。」

二人は桜耶の質問には答えず、軽い自己紹介を始めた。

そして、この戦いでの『ヴィザー』同士の自己紹介は・・・戦いの合図・・・。

それを初心者の美鈴も空気で察した。

「桜耶=サーレム・・・」

「・・・春風美鈴です。」

桜耶は戦いの意志を示すかのように自身の紹介を始める。

それにつられて美鈴も控えめな挨拶を済ませる。

「場所・・・変えようか?」

「お気遣い結構・・・。でも心配ご無用・・・。」

そう言うと六花と名乗る少女は壺のようなものをどこからともなく出すと、そこから空いっぱいに紫色の煙を放出させた。

「何これ・・・?」

空を覆う紫の煙に美鈴は驚きただただ空を見上げる。

「これは“閑古壺(カッコウ・ポット)”・・・人除けに使われる道具・・・。」

そう説明している内にさっきまで屋上にいた人達がいつのまにか姿を消していた。

自分たちしかいない屋上に美鈴は妙に気味が悪くなり背筋を反りかえしてしまう。

「じゃ、始める?」

そう言うと六花は両手に大きな鎖の付いた刺鉄球を具象化した。

補足となるが、武召具は魔力の解放時以外にも具現化は出来るようになっている。

ただし、“マギル”未活動のため解放時に使える魔力的な力は使えないし、その魔力を纏うこともない。

ただの武器という扱いになってしまう。

「さ、桜耶・・・。」

六花の妙な威圧に美鈴が少したじろく。

そんな美鈴に桜耶は、大丈夫とばかりに美鈴の前に立ち、美鈴に余裕の笑顔を見せる。

「ほら美鈴、昨日教えたじゃん?やって!」

「あ、あぁ・・・うん・・・。」

言われるがままに美鈴は桜耶に目線を合わせると桜耶の額に手を当てた。

「・・・“小さなカリオストロの姫よ・・・コワセコワセハカイセヨ”」

美鈴の言霊で桜耶は全身に魔力が一気に生き通う。

この美鈴の唱えた言霊は『ヴィザー』の力を解放の為の必須条件の一つであり“始(はじまり)の詩(うた)”と呼ばれている。

この“始の詩”は『ヴィザー』によって異なり、それぞれその『ヴィザー』の力の大きな特徴を表したものとなっている。

他の魔力解放の条件としては最初に『ヴィザー』から受け取ったであろう赤い石が埋め込まれた指輪・・・“魔黄の輪(まおうのわ)”を装着していないといけない。

また、先の美鈴のようにわざわざ『ヴィザー』の額に手は当てなくてもいいが『ヴィザー』に触れなければ解放は出来ない。

「準備完了のようね・・・?」

桜耶の魔力解放を見届けた後、続いて六花が魔力の解放へと移る。

「・・・“漆黒の羽を纏いし烏女(うめ)よ・・今ここに、六の呪の花を咲かせよ。”」

宏樹の“始の詩”によって六花の力も解放される。

「これで互いに・・・いつでも戦闘態勢・・・いつでもいらっしゃい?」

余裕に片手で手招きをしながら、もう一方の手ではジャラジャラと鎖付き鉄球を鳴らしている。

「そういえば桜耶・・・あなたの“武召具”ってなんなの?」

美鈴の問いかけに少し得意げな顔をする。

そして、それを具現化する。

「・・・・・?」

しかし、すぐに美鈴には桜耶の武器が何なのか分からなかった。

桜耶の手には武器らしいものは何もないように思える。

それは桜耶の手先にあった。

「・・・あ」

ようやく美鈴がそれの存在に気付く。

桜耶のそれぞれ十本の指に装飾されたなんの飾り気もない白い指輪。

これこそが桜耶の武器だった。



6階・・・レストラン街

ここで紅蔭とこよりは食事の真っ最中だった。

紅蔭はこよりの質問攻めにあっていた。

しかし、どれも他愛のないものばかりだったので紅蔭は淡々と答えていく。

そんな一問一答が繰り広げられている中・・・紅蔭はある事に気づいた。

レストランの窓から外を見ているとやたらと群がるのは・・・カラスたち。

「鴉・・・」

さっきの鴉の羽がどことなく気になっていた紅蔭はこよりの話を半ば聞き流しながら、その鴉たちの進路を目で追う。

・・・このデパートの屋上だった。

そして、それと同時に紅蔭の五感にどことなく行き渡る独特の・・・気配。

元々、『ヴィザー』の中でマギル未活動中でもその独特な個体オーラを肌に感じて気付くものは稀にいるが、紅蔭にはそういった感知能力は持ち合わせていない。

しかし、解放された魔力が近くにあるなら少なからず体にむず痒い程度に感じることは出来た。

そして・・・紅蔭は不確かながらに気付く・・・。

今、このデパート内に『ヴィザー』がいると・・・

特に今は自分に矛先が向いている様子もないので紅蔭は放置をしようと考えた。

しかし、完全に自分にそれが向いていないという確証はどこにもない。

しかも今は関係のないこよりまでいる。

そして・・・『ソーサー』である春がいない。

そのことが紅蔭の冷静な心に少しの不安を感じさせる。

ここは・・・6階。

今、屋上で戦いが起きているなら巻き添えを食らう可能性も無きにしも非ず。

ならば、こよりと早々にこの建物から出るのが賢明な策といえるだろう。

しかし、それでは紅蔭自身が納得しても、彼女の中の威厳がそれを許さなかった。

そして、その威厳を彼女が抑えられるかというとそれもまた難しい話である。

「どうしたの?紅蔭ちゃん?」

紅蔭は徐に席から立ち上がるとそれをこよりがオムハヤシを食べながら紅蔭を見上げる。

「少し・・・お手洗いに・・・」

こよりが顔をしかめた。

「食事中に?行儀悪いなぁ・・・。」

「ごめんなさい・・・」

そんなこよりに一礼すると紅蔭はこっそりとレストランを抜け出した。

「様子見だけなら・・・」

そう思いながら紅蔭は向かった。

戦場となってるであろう屋上へ・・・!



〜桜耶VS六花〜




「“武召具”・・・“サイテンコ・リング”!」

見せびらかすように両手を前に出す桜耶。

「この指輪・・・凄いよ?」

そう言いながら、今度は片手だけを前に出し、六花に狙いを定めるように掌を彼女に向ける。

それ見定めるように六花は集中を研ぎ澄まし、その手から放たれるであろう桜耶の力とその掌に細心の注意を払う。

そして、それは放たれた。

「サールス・サーレス・・・“念砲(ウィ・キャン)”!!」

「・・・!?」

六花の体が突如浮き出し。そのまま屋上フェンスに吹っ飛ぶように突っ込んだ。

その光景に目を見開き驚く美鈴・・・。

そして、冷静に何が起きたかを六花の『ソーサー』の宏樹は見極める。

「・・・“衝撃”系の術か・・・?」

「へへへ・・・惜しいね?“衝撃”じゃないよ・・・。」

桜耶はそう言いながら、再び片手を前に出す。

すると、屋上ラウンジのテーブルが急に浮き出す。

そして、桜耶の手が動くのに合わせてテーブルもひとりでに動き出す。

「“操作”系統・・・?」

「ん・・・まぁ。そんなところかな?そして魔術というよりも・・・“超能力”ってとこかな?」

その言葉が言い終わると同時にフェンスに叩きつけられた六花めがけてテーブルを放つ。

しかし、六花は地に腰を付けながら、持っている鉄球で飛んでくるテーブルをなぎ払った。

テーブルは派手な音と共に派手に破壊された。

「やってくれたわね?少し油断してたわ・・・。」

「油断大敵!!喧嘩吹っ掛けてきたわりには随分と軽率だね?」

「そうね・・・失礼したわ。」

そう言うと六花は両手を前にかざす。

すると、六花の前に黒い大きな輪が現れた。

「何が始まるの?」

まだまだ未知数のこの戦いに昨日まで一般女子高生だった美鈴は不安そうにその光景を見守る。

桜耶も警戒を絶やさず、その輪をじっと見つめる。

「シーム・シ―ローム・・・“十祖の呪祖(テンポー・コルス)”・・・。」

六花が独自の術式を唱えると、輪の中から十匹の鴉が現れた。

そして、鴉たちはまっすぐに桜耶向って飛んでくる。

「ひっ!」

桜耶は群れなす鴉たちの襲来に異様な恐怖を覚えた。

桜耶は慌てて足に念力を集中させて、一気にジャンプした。

「スゴ・・・」

真剣に感心する美鈴・・・。

桜耶は数メートル上までジャンプすると、己の念力で体を安定させ浮かした。

しかし、鴉たちはまだ向かってくる。

慌てて空中を移動しながら逃げる桜耶。

しかし、空が庭の鳥たちに敵うはずもなく桜耶は鴉に囲まれてしまう。

「・・・“死足(ダス・シュー)”」

「な・・・?」

すると鴉は一斉に桜耶の足めがけて突っ込んできた。

「うわぁぁぁ!!」

思わず声を上げる桜耶。

鴉たちは桜耶の足を攻撃をしているわけではなく、桜耶の足に吸い込まれていると言った方が妥当だろう。

鴉は一匹残らず桜耶の足の中に収まった。

「桜耶・・・!」

美鈴の声が響く中・・・桜耶は自分の体の異変に気付いていた。

そして・・・

「ちょ・・・桜耶!」

桜耶は急にバランスを崩し、空中から真っ逆さまに落ちてしまった。

慌てて、それを受けとめる美鈴。

「ふぅ・・・びっくりした。」

とりあえず無事な桜耶に安堵のため息を出す。

「足が・・・右足が重い・・・。」

「へ?」

美鈴が桜耶を腕から下ろすと桜耶は歩きにくそうに右足を引きずる。

桜耶はああはいうが美鈴が桜耶を抱えたところ特に重さは感じなかった。

むしろ桜耶は年齢の割には他の子より軽いと感じたほどだ。

「だ、大丈夫桜耶?」

「平気平気!」

心配する美鈴に桜耶は笑って答えてみせる。

そして、六花を睨みつける。

「どう?私の鴉の味は?」

「重い・・・胃もたれ・・・足もたれしそうだよ。」

桜耶の右足は美鈴が思うほどに重かった。

鴉一匹に対し、対象重さ約一・二五倍の重さの負荷がかかる。

桜耶の体重が二十一sとして、桜耶の足に入ったのは一〇匹で三・五倍・・・。

計約七〇sの負荷が掛っていた。

その重さは肉体的なものではなく精神的なものからくる錯覚だったが桜耶がそれに気付く術はない。

「参ったね・・・。これじゃ宙に浮けないよ・・・。」

口ではそう語るも、桜耶の表情は未だに余裕だった。

それが気に食わないのか六花の表情からは明らかな苛立ちを感じさせた。

そんな六花の表情とはうらはらに彼女は冷静に距離をとり、次の攻撃に移る。

「シーム・シ―ローム・・・“黒羽の曲技(ブライング・ワット)”!!」

鋭い鴉の羽の群れが動けない桜耶めがけて飛んでくる。

「サールス・サーレス・・・“支配する兵力(クォント・アーミー)”!!」

桜耶は持ち前の念力で六花の攻撃を止めるが、桜耶の意識は自然に足にいってしまい魔力への集中が途切れてしまう。

それ故、止まっていた攻撃も再び動き出し、容赦なく桜耶を傷つける。

「桜耶!!」

六花は攻撃の手を緩めることはなく、続いて武召具の鎖付き鉄球で桜耶を吹き飛ばす。

桜耶は屋上遊具の観覧車に派手に突っ込んだ。

あまりにすさまじい攻撃に美鈴は相手を睨みつけることもなく・・・ただ息を呑む。

そして、ようやく体が桜耶の方へと向いた。



「来るな!!」

観覧車にもたたれかかりながら桜耶はこちらへと向かってくる美鈴を制した。

美鈴は桜耶に言われるがまま立ち止まり・・・そして、数歩後ろへ下がる。

それは桜耶のオーラからただならぬものを感じたから・・・

危険な・・・そんな感覚のオーラを美鈴は敏感に感じ取ってしまった。

そして、次の瞬間美鈴は自分のこの行動が正しかったことを確信する。

それは、六花でも想像しえなかったことだった。

「ちょ・・・」

桜耶の後ろの観覧車がみるみる内に宙に浮くその光景は狭い世界を生きて来た美鈴にとってまるでこの世の終わりと思わせるような光景だった。

「ああああああああ」

桜耶の雄たけびがこだまする。

それに怯んでしまうのは六花のみだった・・・。

宏樹はただただその光景を目の当たりに傍観をしているといった感じだ。

そして、美鈴は・・・そんな桜耶の動きをずっと見守っていた。

しかし、凄まじい雄叫びとは裏腹に観覧車はそのまま再び地面に轟音とともに着いた。

それを確認し、六花はホッと胸をなでおろした。

一方で、美鈴は冷静になれたことで後ろめたい気持ちになってしまった。

(あの・・・観覧車ってやっぱ弁償ウチなのかな・・・・?)

そんな地味に深刻な問題を美鈴は一人抱えていた。

しかし、桜耶もただで観覧車を壊したわけではない。

彼女には彼女なりの策が講じてあった。

一方、明らか不意を突かれた六花の悔しさは美鈴が想像するよりもはるかに大きかった。

表情には出さないものの今の桜耶の行動には度肝を抜かされ、そして、顔が引きつる思いだったはずだ。

そんなことが彼女に苛立ちを感じさせていた。

そしてイライラがまた一つ・・・

「ちょっと・・・遅いんじゃない?」

未だに大破した観覧車の中から現れない桜耶に六花は足をピコピコと小さく動かす。

「桜耶?」

美鈴も少しの不安を感じる。

しかし、今観覧車に近づくのは正直不安があった。


「サールス・サーレス・・・“神様の玩具(ミルガーナ)”」


その予感は的中した。

「な・・・?」

美鈴達の目に映ったもの・・・

それはまるで積み木のように連合していく観覧車の座席部分・・・。

ひとりでに動き出し、それらは連結し、一つの形を成していく。

そして、完成したのは・・・

人型とも思える観覧車で作られた巨大な人形・・・。

桜耶が極限の力で作り上げた桜耶のとっておきだった!!

桜耶はわざわざこれがやりたいがために観覧車を破壊したのだ。

そう考えると美鈴の肩にドッと重いものがのしかかる。

「桜耶特製お助けロボット“ドランシャーZ”!」

まるで前作があったかのようなネーミングセンスに美鈴はある意味で脱帽する。

しかし、本人が楽しそうに見える一方で中は・・・

桜耶の方はまさにギリギリの戦いだった。

このロボを作り上げるのに要した観覧車座席部分の数は腕に十、足に八、胴体に十二、頭に一と計三十一と、今の桜耶の魔力から考えるとかなりの無謀極まりない数だ。

これだけのそれ相応の大きさを連結・安定させるだけでも桜耶にとってはいっぱいいっぱいといった感じだろう。

増してやそれを動かすなどとうてい無理があった。

それを察した六花は勝利を確信しほほ笑む。

そして心のなかで嘲げる・・・。

勝ちに急ぎ走った桜耶を・・・。

しかし、そんな彼女の笑いは一瞬のうちに絶望へと変わった。



振り上げられる巨大な右腕・・・。

「まさか・・・」

六花でだけではなく、美鈴も驚いた。

まさかあんな大きなものがこれ以上動くとは思えなかったからだ。

「桜耶・・・すごい。」

そんな彼女のガッツに美鈴は素で感動する。

「サールス・サーレス“神様遊戯(ミルゲート)”」

振り上げた右手はそのまま六花めがけて振り下ろされた。

「あああああああああああああ」

「いやあああああああああああ」

・・・・聞こえたのは

聞く人皆竦み上がりそうな雄たけびと・・・

聞く人皆絶望をどことなく感じさせる断末魔。


来るべき攻撃に六花は咄嗟に体に魔力を集中させ、体を固めることくらいしかできなかった。

そしてそのまま彼女は気絶した。

振り下ろされる拳を目の前に・・・。

「桜耶・・・。」

美鈴はその光景にどことなくほっとした。

拳を止めたのは恐らく桜耶のパワー切れだっただろうがこの結果は桜耶にとってマイナスにはならなかった。

美鈴にはそう思えた。



〜見守る影〜




「大丈夫、桜耶?」

観覧車の中から美鈴は桜耶を引っ張り出し、抱きかかえる。

「ちかれた〜・・・・あいつは?」

疲れ果てぐったりとした桜耶は先に意識を失った六花の様子を確認しようとした。

しかし・・・そこにはだれにもいなくて・・・・。

「あれ?どこ行っちゃったんだろ?」

キョロキョロと辺りを見渡す美鈴。

そんな彼女の耳に不意に聞きなれない少女の声が入って来た。

「申し訳ありません・・・今回はあなた方の勝ちです。この六花=シンドロームは勝手ながらこちらで保護させていただきます。」

それだけ言い終えるとその声は途切れた。

互いに首を傾げる。

桜耶の方は決着がつけずしてモヤモヤ感が残ったらしく、少しの間少ない体力で暴れていたが直にすやすやと気持ちよさそうに眠りについた。

そんな彼女たちを見守る影がひとつ・・・。

レストランから抜け出た紅蔭は派手に破壊された屋上を見てため息をついた。

「あの子・・・“修復キッド“も持たずに・・・」

ほとほとに呆れ混じりにそう言うと紅蔭は最後に疲れ、眠り果てる彼女にそっと笑いかけ、そっと姿を消した。

しかし、彼女・・・桜耶には分かっていた最初から・・・自分を見てくれていた親友の存在に・・・。

そして紅蔭が階段を降り切ったころには桜耶の意識はホントのまどろみへと沈んでいった。

「わたしも・・・がんばるよ。だから紅蔭も頑張って。私、力いっぱい応援するから・・・。」

幸せそうな寝顔を浮かべながら桜耶はそうつぶやいた。 春と紅蔭から遅れること一日・・・

桜耶と美鈴の長い戦いが始まった・・・。

続く。


あとがき


どもぽちゃです。

温泉旅行を挟んだので1話遅れました。

すいません

今回は新キャラ桜耶が主役でした。

だから春や紅蔭はお休みです(笑)

美鈴のキャラがイマイチ分からないあなた!!

安心してください!!

ぽちゃもわかんないです!!(笑)

次回も2週間後に会えたらいいですね?

じゃ、また!!